誰も見たことがないものを見せたい
──自殺した莉花が幽霊(鬼火)として現れる展開は、かなり意外性がありました。
世代的に『ハリー・ポッター』とか『ロード・オブ・ザ・リング』がすごく流行っていた時期に青春時代を過ごしたので、ファンタジー的な世界観は昔から好きでした。社会的なテーマとして自殺を描くこともできたとは思いますが、私が映画を撮るのであれば、ファンタジーの雰囲気を取り入れたいと思ったんです。
──莉花の幽霊は杏菜にしか見えません。この設定は、周囲と自分との世界の見え方が違うことを表したメタファーでもありますね。こちらも監督の経験が投影されているのでしょうか?
私自身は残念ながら幽霊は見えませんが、好きなものが他の子と違うみたいな感覚は同じく感じていました。学生時代は冷めた目でクールに世の中を俯瞰していた気がします。
当時は映画よりも音楽に夢中で、フジファブリックやアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のライブに行ったり、自分でもバンドを組んでギターを担当していました。THE BLUE HEARTSの「リンダ リンダ」を演奏したりしていましたね。だから本当はミュージシャンになりたかったんです。
──映画監督を志したのは?
子供の頃からアニメやハリウッド映画を見る習慣はありました。学生のときに是枝裕和監督の『誰も知らない』を劇場で見て、「なんかすごい映画だな」と思ったのを覚えています。そこからアート系の作品にも興味が広がって、好きなバンドマンがブログでおすすめしている映画などを見るようになりました。
その流れで「ミュージシャンになる才能はないけれど、映画とか作ってみたらおもしろそう」とは思っていて。大学でサークルに入ってみたら、ビデオカメラもあるし映画好きな人もいるし、「どうやら撮れるらしい」ということを知り、映画作りをするようになりました。だから絶対に映画監督になろうと思ったというよりも、他になりたいものがなかったんです。
──実際に映画を作ってみたら、楽しかったということですか?
『白の花実』の前に製作した自主映画は、正直大変さのほうが大きかったですね。お金もスタッフも自分で集めて、撮影も編集も全部やらなければならないので。だから「他の人にお金を出してもらって、他の人がスタッフを呼んできてくれる映画ってこんなに撮りやすいんだ!」と、今回初めて思いました(笑)。
自分だけが撮りたくて映画を作っていた世界から、みんなが「やりたい」と集まってくれる状況になったことのうれしさが大きかったですね。
──監督が映画を通して観客に与えたい感情は?
びっくりさせたいみたいな気持ちはあるかもしれません。そういう意味では、『E.T.』のような、自分と違う生き物との出会いを描いたワクワク感は、この映画にもほしいと思った要素です。今となっては自然に受け入れていますが、『E.T.』ってよく考えたらすごいアイデアじゃないですか。誰も見たことがないものを見せたいという気持ちは、これからも持ち続けていきたいです。
取材・文/松山梢
撮影/石田壮一
プロデューサー:山本晃久
製作·配給:ビターズ・エンド
制作プロダクション:キアロスクロ
英題: White Flowers and Fruits
©2025 BITTERS END/CHIAROSCURO
2025年/日本/カラー/DCP/5.1ch/ビスタ/110分
12月26日(金) 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開公式HP:https://www.bitters.co.jp/kajitsu/
公式 X:https://x.com/shirono_kajitsu @shirono_kajitsu #白の花実
公式Instagram:https://www.instagram.com/shiro_no_kajitsu @shiro_no_kajitsu












