夫を手に入れた代償

ある日、平穏な日々を壊す出来事がありました。その日、夫は買い物に行くというので、私はひとりで出社していました。

私に電話が入ると、警察だというのです。

「ご主人を、条例違反容疑で逮捕しています」

私は知人の弁護士に連絡を取り、すぐに一緒に警察署に向かいました。夫は電車内で女性のスカートの中を携帯で盗撮したというのです。証拠が残っているのだから、言い逃れはできません。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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「ごめん、ちょっとしたイタズラ心というか、こんな騒ぎになるとは思わなくて……」

夫の言い訳に、私は何と答えて良いかわかりませんでした。

弁護人からは、罰金を払って終わるので会社にバレることもないだろうと言われ、胸を撫で下ろしました。父に知られてしまえば、ただでは済みません。

「盗撮は常習性があるから気を付けてね」

帰り際、弁護人からそう助言されましたが、だからといってどうすればいいのか、私には見当がつきませんでした。

夫は馬鹿なことをしたと自分を責めていたし、私が何か言うことで、これ以上夫を追い詰めることだけはしたくない。人生一度の過ちとして私は受け入れ、許すことにしました。

それからしばらく、ふたりとも事件には触れずに時間が過ぎていきました。

ところが一年後、夫はまた逮捕されました。今度は、私たちが暮らす自宅付近で、帰宅途中の女性に抱きついたというのです。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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警察の話によれば、他にも何件か余罪があるということでした。思い当たる節があるとすれば、最近、私が入浴する頃いつも、煙草を買いに行くと言って出かけるようになっていたことです。

なかなか戻ってこないので心配になり携帯に電話をかけると、煙草を吸っていたというのです。夫が煙草を吸い始めたのも、つい最近のことでした。

今回は実名報道され、家族も知るところとなってしまいました。私はこの事件を機に、会社を退社して独立を決意しました。法律事務所で働いていましたが、十分にひとりでやっていける人脈とノウハウは身に付けていました。私の会社ならば、夫が働いていても誰に文句を言われる筋合いはありません。

被害女性には五百万円の示談金を支払いましたが、起訴は免れず、私は情状証人として裁判で証言することになりました。私がついてさえいれば、安定した住居も仕事も確保できることから、更生の環境としては完璧です。夫は執行猶予付き判決を得ることができました。

釈放された夫は申し訳なさそうにしていて、私の目を見ることができませんでした。

「何も言わなくていいわ。私がずっと面倒見ていくから」

夫は子どものように泣き出しました。
私は自分の会社を設立することで、夫とともに生活を立て直すことにしたのです。