「お先真っ暗」ではない!? 日本の漁業
今でも漁業関係者からは「日本の漁業はまだまだいける!」といった前向きな見方がある。漁獲量の減少は、内外の漁業・魚資源をめぐる急激な環境変化によるもので、日本漁業のポテンシャルに急激な衰えはないという捉え方である。
世界の漁業生産が過去最多を更新する一方で、日本の漁業はジリ貧状態。ただ、天然魚介類の生産は、内外ともに決して好調というわけではない。FAOの近年の報告によれば、世界の水産資源の35%が過剰に漁獲されており、持続可能な漁業資源の利用が求められている。
そうした中、日本の漁業生産の落ち込みについては、戦後の高度成長に伴う独占的な漁業の反動といった見方がある。日本だけでなく、世界で漁業生産活動が活発化し、今では天然の水産資源の多くが減少傾向となる中で、サステナブル(持続可能)な漁業を模索する動きが活発化している。
このように、天然魚の生産は日本だけでなく、世界レベルで伸び悩み、下降傾向をたどっている。その一方で、海外では養殖漁業の発展が目覚ましく、これが世界的な漁業生産の伸びを支えているのだ。
世界的な漁業生産の上昇は現在、中国をはじめとした養殖によってもたらされていると言える。中国では、コイやフナのほか、ソウギョやハクレンと呼ばれる淡水魚を中心に、活発な養殖生産が行われている。
これに対し、日本の養殖生産は緩やかな減少傾向。2024年の養殖生産量は合計約83万トン(海面・内水面)で、過去20年で3割以上減った。養殖の生産量は、海の天然魚の状況とは異なり、消費不振などにより採算が合わなくなるケースが多く、生産を抑えざるを得ないといった事情からだ。
日本では天然志向が根強く、ハマチやカンパチ、タイやサケなど、国内の天然魚や輸入魚との競合により、消費が振るわずに魚価安となったり、餌などの経費がかさんだりして、生産を伸ばせない状況となっている。
文/川本大吾 写真/shutterstock
『国産の魚はどこへ消えたのか?』(講談社)
川本大吾
2025年12月4日
1,210円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4065421901
1980年代末まで世界一の漁業大国として、和の食文化を支えてきた日本の漁業。だが近年は漁獲量もベスト10圏外に落ち凋落著しい。なぜいまのような状況になっているのか。気候変動・乱獲などによる不漁、せっかくたくさん獲っても一般消費者の食卓まで届かない流通の問題、サーモン、サバをはじめ、海外からの輸入増大、後継者不足。日本の漁業の現在を長年の取材から明らかにしながら、これからの道を探る。
【目次】
第一章 減り続ける日本の魚
〇漁業生産、過去最低を更新中〇世界は増加傾向だが天然魚は頭打ち〇日本漁業、水揚げ1位はマイワシetc.
第二章 獲っても食べない国産魚
〇今の魚の自給率は半分近く〇スーパーの台頭が魚離れの原因か〇マグロやアジの開きも安さ重視etc.
第三章 日本一の魚を食べない理由
〇マイワシが魚の餌ではもったいない〇マイワシの流通阻む100グラムの壁〇職人からも調理が敬遠される etc.
第四章 消費の主役は外国魚
〇伝統・郷土料理にもノルウェー産〇ノルウェーに漁港がない理由〇アフリカ諸国で人気、日本産のサバetc.
第五章 秋の味覚はいつ復活するのか
〇豊漁には程遠い推定資源量〇サンマ漁業関係者の苦境〇マグロ漁やイカ漁へ挑戦etc.
第六章 揺れ動く日本のマグロ事情
〇「大間まぐろ」がほかの追随を許さない理由とは〇マグロ管理の甘さを露呈、国の対応急務etc.
第七章 強化される内外のマグロ管理
〇日本周辺のマグロ、一時は最低水準に〇流通の主役・普及品のメバチマグロ
第八章 マグロ人気に陰り・サーモンが台頭
〇当初は「日本では無理」と門前払い〇回転寿司やスーパーのマグロはおいしいかetc.
第九章 おいしいマグロが食べたい!
〇冷凍マグロのおいしい解凍法とは〇血合いには赤身の100倍のセレノネインがetc.
第十章 大衆魚の利用が水産業復権のカギ
〇獲れる魚を食べられるように〇小サバのうまい食べ方とは?etc.
第十一章 漁師の減少を食い止めよう
〇10年前の3割減〇各地で続々、女性漁師が誕生etc.