「本心なわけないやろ!」
少し話が逸れるが、この本を読み進めてもらえれば、僕が気になったことは見過ごせない、年上、年下お構いなしに、その思いをぶつけてしまう、というシーンにたびたび出会うと思う。これは僕の性格である、ということを理解してほしい(笑)。
さて、その性格はあの星野さんに対しても同じだった。
初めての出会いからは想像できないくらい、星野さんとの距離は縮まっていた。きっかけは、おそらく2013年の試合でさせてもらったある進言だったと思っている。
その試合、星野さんはバントをするために代打を出そうとしていた。ただ、その選手はバントがうまくなかった。迷った末、思い切って星野さんに歩み寄った。
「バントなら森山(周)が一番うまいです」
そのときの森山は「代走のスペシャリスト」としてチームに欠かせない役割を担ってくれていた。もしかすると星野さんの中で「代走・森山」も想定しているかもしれない。
そう思い、話を続けた。
「このバントと、その後の森山の代走、(星野さんの中で)どっちが大事ですか?もしこのバントと思われるなら、森山を使ってください。森山となら僕、心中できます」
怒られるかもしれない、と思ったけれど「言わなければ後悔する」。星野さんは僕の進言を受け入れ、そして森山はバントを成功させてくれた。
以来、星野さんから声を掛けてもらい、食事に行くことも一気に増えた。
かつて持っていた「冷たい人」とはかけ離れた人間性に触れ、逆に「あの一言」の真意が気になった。そして、ある食事の席でのこと、さすがに勇気を振り絞り、でもストレートに星野さんに尋ねた。
「震災が起きたとき、監督は僕らに『野球だけしとけばいいんだ』と怒鳴られました。あれは本心だったんですか?」
どんな表情をされていたかは記憶にない。
でも即答だった。
「本心なわけないやろ!」
その言葉は、怒っているようにも、諭すような優しさを含んでいるようにも聞こえた。そして、「あの日」のことを話してくれた。
「チームを預かるトップとして、お前らの気持ちは痛いほどわかっていた。でもな、あのときはまだ、被害が起きたばかりで被災者の多くが連絡も取れない。
行方不明者も日に日に増えて、家も車も大切なものも津波で流されて、町は瓦礫の山で、被災地はどうにもならん状況や。そこに俺ら一軍、二軍の選手、スタッフ総出で行けばマスコミだってついてくる。話題にはなるし、被災者も喜んでくれるかもしれない。
……それで何になるんだ?俺たちが大人数で被災地に行って、本当に行かなければいけない人たちが行けなくなったらどうする?
ずっと滞在してボランティア活動ができるなら、行く意味があるかもしれない。でも、ずっとはいられない。俺らは野球をしなくちゃいけないんだ」













