「大小30以上の犯罪拠点があります」 

ミャンマーの特殊詐欺拠点から7000名以上の外国人が救出されたとタイ当局が発表したのは2月24日。これまでメソトの対岸にあるミャワディでは大規模な摘発作戦が展開されてきた。

詐欺拠点には数万人規模が囚われていると報道され、そこには「10人くらい日本人と思われる人がいた」との証言も出ている。

拠点で詐欺に従事させられていた16歳や17歳の日本人の少年も最近になって保護され、日本でもミャワディでの“犯罪拠点”の実態が注目され始めている。

ミャワディは、ミャンマー東部カレン州に位置する。タイの国境に面しているため、歴史的に両国間の重要な交易拠点として栄えてきた過去がある。

タイ側のメソトから見たミャンマー国境ゲート。ゲートを潜って橋を渡るとミャワディだ(写真/Soichiro Koriyama)
タイ側のメソトから見たミャンマー国境ゲート。ゲートを潜って橋を渡るとミャワディだ(写真/Soichiro Koriyama)
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しかし、近年激しさを増す内戦や政治不安、武装勢力などの活動により、同地域は国家の統制が及びにくい状態となり、違法ビジネスが広がる温床となっていた。

「国境沿いのミャンマー側には大小30以上の犯罪拠点があります」

そう話すのは、メソトで暮らすタイ人の男性経営者だ。中でも、大規模な犯罪拠点となっているのが、「KKパーク(KK園区)」と「シュエコッコ」と呼ばれる2つの場所だという。当時、このタイ人に連れられ、KKパークがよく見えるという建物の屋上に案内された。

「あそこにはカジノホテルがある。しかし実態は、オンライン詐欺を世界中に仕掛けている拠点で、数千人が敷地の中に暮らして詐欺をしています」(同前)

ミャンマー、ミャワディにある「シュエコッコ」(写真/Shutterstock)
ミャンマー、ミャワディにある「シュエコッコ」(写真/Shutterstock)

タイ人によれば、高い塀に囲われた敷地の中で働く人の多くが、「いい仕事がある」「儲かる事業をしないか」「モデルや俳優にならないか」と誘い出され、ミャワディに着くとそのまま監禁されたという。

こうして東南アジアを中心に世界各国から騙されて連れて来られた人々や、誘拐や人身売買された被害者が、投資詐欺や振り込め詐欺、国際ロマンス詐欺などと呼ばれる特殊詐欺を強制的にやらされていた。地元では被害者たちを“サイバー奴隷”などと呼んでいた。

国連薬物犯罪事務所によれば、2023年だけで東アジアと東南アジア全域での詐欺による損失は180億ドルから370億ドル(約2兆7000億円から約5兆5000億円)に上ると推定。

また2023年時点で国連は、東南アジア全域や、タイ・ミャンマー国境に多数の犯罪拠点が点在し、「数十万人が人身売買され強制労働させられている」と警鐘を鳴らしていたが、そうした状況は改善されるどころか、年々、新たな詐欺拠点が建設されている有様だったのだ。