老人ホームの選び方

将来入るかもしれない老人ホームに目星をつける際は、パンフレットを読むだけでなく、実際に施設を見学すること、可能なら複数の施設を訪ねて比較することをお勧めします。見学の際は、いくつかのポイントがあります。

まず、来訪者に対して職員が笑顔できちんと挨拶してくれるかどうか。それだけで研修が行き届いているかがわかります。次に、入居者や職員の表情がいきいきしているかどうか。楽しく語らう様子などからホームの雰囲気をうかがい知ることができます。

もちろん、「元気で明るい雰囲気だとかえって居心地が悪い」「部屋で静かに過ごしたいので、室内空間の充実が最優先」という方もいるでしょう。「自分に合っている、合っていない」の基準で判断するといいと思います。

さらに、案内してくれる職員に「このホームはいつまでいられますか?」と質問してみましょう。「いつまでもいられますよ」と漠然とした答えが返ってきた場合、選択肢から外したほうが無難です。看取りまでケアする体制のあるホームであれば、「昨年は10人の方が亡くなり、そのうち7人がこのホームで、3人が病院で亡くなりました」などと具体的な情報を伝えてくれるはずです。

そして、トイレを必ず借りましょう。日々の清掃が行き届いているかを確かめるためです。ほかにも、衛生管理が杜撰だと、食堂のテーブルがベタベタしていたり、醬油差しなどにホコリがたまっていたりします。介護職員が「掃除は清掃業者の仕事」という姿勢でゴミのひとつも拾わない施設から、職員各自が衛生に気を配っている施設までさまざまありますので、よく観察しましょう。

トイレは必ずチェックしたい(画像/Shutterstock)
トイレは必ずチェックしたい(画像/Shutterstock)
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最後に、施設の責任者が見送りの挨拶に出てきてくれるかどうか。施設の入居者への普段の対応はそうしたところにも表れるものです。

以上のポイントは、施設内を10分も歩けば確認できます。自分の経験上明言できるのは、とても律儀に対応してくれる職員がいる一方で、挨拶ひとつしない職員がいるなど、対応が一律でないホームは要注意だということです。属人的な運営は一部の職員に負担が集中しがちで、それを放置していること自体が「難あり」な施設だと推測できます。

私自身、老人ホームの運営に携わっていた現職時代はこうしたポイントについて常に注意を払い、ホームのサービスに携わる人たちにも意識するようにと伝えていました。

老人ホームに求める条件として、「費用」「立地」「職員や入居者の雰囲気」「生活支援サービス」「介護サービス」「看護や医療機関との連携」「認知症ケア」「食事内容」「リハビリ支援」「趣味やレクリエーションのプログラム」などが挙げられます。自身が何を優先するのかを周囲に伝え、見学の際にも優先事項に沿ってよく確認しておきましょう。

現実的な話をしますと、予算との兼ね合いもありますから、すべての条件が申し分なくそろった施設はほぼないと考えたほうがよいでしょう。だからこそ、「これだけは譲れない」という希望を親が元気なうちに親子間で共有しておくことが重要なのです。