ジローラモを選んだ3つの理由

『LEON』の革新性は、ターゲット設定にもあった。

既存の男性ファッション誌は、どれも1万部程度しか売れていなかった。読者は少ない──それが業界の常識だった。

「でも僕は、ファッション好きじゃない人間を狙ったんです。いわゆる小金持ちな中年男性、今までファッション誌なんて買ったことはないような。ただ願望としては、女性にモテたいなとか、『あの人ちょっとかっこいいよね』って思われたいっていう」

ファッション誌の関係者からは「ビジネスに魂を売った編集長」と批判された。だが、岸田さんは意に介さなかった。

「読者は少ないですよ。私の時代でも9万部ぐらいしか実売取れてないわけだから。ただ、読者層が圧倒的にお金を持っていて、そこに対する影響力があった。それが全てだったんです」

『LEON』の顔となったのが、イタリア人タレントのパンツェッタ・ジローラモだ。だが、起用当初はそこまで世間に知られた存在ではなかった。

資本のある大手出版社には、資金も有名芸能事務所とのコネクションもある。中堅の主婦と生活社では、そこには頼れなかったという。

「じゃあ中途半端なちょっと売れてない芸能人で行くかってわけにもいかない。だから意表をついて、あまり知られていない外国人モデルにしようって」

ジローラモとの思い出話をする岸田一郎 撮影/佐藤靖彦
ジローラモとの思い出話をする岸田一郎 撮影/佐藤靖彦

ジローラモを選んだ理由は3つあった。

「ギャラが安い、私の提案を受け入れてくれる、そして決して二枚目じゃない(笑)。

電車に乗ってて向かい側に座ってても、『うわ、かっこいい人だ』とは思わないでしょ。『なんか人懐っこそうな人だな』って思うくらい。つまり読者にとって共感できるんです」

この"賭け"は大成功した。ジローラモは『LEON』とともに成長し、今や「ひとりの男性モデルが同一月刊誌の表紙モデルとして出演し続ける」ということでギネス記録を更新中の存在にまでなった。

「彼も本当によくやってくれた。お茶目な性格でね。一緒に上がってきてくれたっていう感じです。何でも快くOKしてくれてありがたいと思っていましたよ」