土壇場での“空気の読めなさ”

参院選で “日本人ファースト”という排外主義的との批判も呼んだキャッチフレーズを掲げ、「外国人問題」を訴えて躍進した参政党を意識し、いわゆる“岩盤保守層”の党員の支持を得る狙いがあったとしても、「あまりに極端で危うい演説」(前出・自民党関係者)だった。

これにはさすがに、高市選対関係者も危機感を抱かざるを得なかった。

高市氏支援を表明している自民党の西田昌司参院議員(67)は同日に自身のYouTubeで、「奈良の鹿の話に時間をとりすぎて、もう少し経済政策や安全保障政策を重点的にお話をしてもらうほうがよかった」「他の4名の方々は自分の所信を真剣に話されてて、そこに関西弁が入ったり、奈良の鹿の話だったり、ちょっとおちゃらけた印象になってしまった」と苦言を呈した。

西田昌司氏(西田昌司事務所Xより)
西田昌司氏(西田昌司事務所Xより)

振り返れば、昨年の総裁選の決選投票前の演説でも、高市氏は持ち時間の5分を超過して注意を受けるなど、土壇場での“空気の読めなさ”が指摘されてきた。奈良の鹿と外国人問題にシフトした所見発表演説でも、不安定感が露呈した格好だ。

高市氏を巡っては、その出馬表明会見でも、司会を務めた選対事務局長で側近の黄川田仁志衆院議員が、質問のために挙手する記者を指す際に「顔が濃い方」「逆に顔が白い、濃くない方」などと発言し、波紋を呼んだ。

高市氏は即座に「なんてことを言う。すみません」と繰り返し謝罪。黄川田氏も会見後に「不適切な表現だった」と謝罪したものの、「バカみたいだ。あんなことを言う必要は一ミリもない」(高市選対関係者)と身内からも司会に対し 批判の声があがっていた。

ANNの序盤情勢報道によれば、小泉進次郎農相(44)が80人近く、林芳正官房長官(64)が50人ほどの議員票をすでに集めるいっぽう、高市氏は40人ほどに留まっているという。

総裁選の所見発表演説会の様子(自民党広報Xより)
総裁選の所見発表演説会の様子(自民党広報Xより)
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前回総裁選のように、麻生派の全面的な支援を得て、議員票の積み増しを図れるかどうかは未知数だ。

前出の高市選対関係者は「党員票で圧倒するしかない」と語るが、日本テレビの「党員・党友電話調査」によれば 、小泉氏が32%とトップで、高市氏は2位の28%だった。

もはや“黒歴史”となってしまった所見発表演説会の反省からか、9月23日の共同記者会見では、減税や交付金の財源について「どうしてもというときは国債の発行もやむを得ない」と語り、他候補との違いを見せた。

9月24日の日本記者クラブの討論会で、奈良公園の鹿についての発言の根拠を問われた高市氏は「自分なりに確認をした」と強弁した。だが、その後のJR秋葉原駅前の街頭演説では、鹿の問題についてはまったく言及しなかった。

“責任ある積極財政”を掲げる高市氏は、その経済政策を訴えることで、序盤の“失策”を挽回できるだろうか。

取材・文/河野嘉誠 集英社オンライン編集部ニュース班