「群馬モデル」と“偏った分配”を指摘する声 

群馬県内には、社会福祉法人が運営する特別養護老人ホーム(特養)、養護老人ホーム、軽費老人ホームが、あわせて300施設近くある。施設が老朽化すれば、設備の更新や修繕が必要になる。そうした費用を支援するのが、県が実施する「大規模修繕事業」だ。

対象は、屋上の防水、外壁の改修、エアコンの更新の3項目。1施設あたり工事費の半額、上限4000万円までを補助するという手厚い制度だ。補助の対象となるのは、中核市(前橋市、高崎市)を除くエリアにある上記3種の高齢者福祉施設、およそ200施設にのぼる。

この大規模修繕事業は、もともとは国(厚労省)の制度として全国的に実施されていた。ところが05年、財務省の予算縮減を受けて制度は廃止。大半の自治体が事業の継続を断念するなか、群馬県は06年度から、県独自の補助制度として再スタートさせている。

以降、約20年にわたり維持されてきたこの制度は、いまや「群馬モデル」として全国から注目される存在になっている。

特養は、介護保険制度が始まった2000年前後に建設された施設が多く、建物の老朽化は全国的な課題。そんななか群馬県の先進的な取り組みに学ぼうと、「他県からの問い合わせや視察依頼が相次いでいる」(群馬県・介護高齢課)のだ。

だが、この制度の裏側では、補助金の“偏った分配”を指摘する声がある。「なぜ、あの施設ばかりが……?」––––そんな不信感が、福祉関係者のあいだに広がっている。

ここでいう「あの施設」とは、元知事、現職県議、元県議、さらには群馬選出の国会議員ら、地元の有力政治家が理事長や副理事長などの肩書をもち、法人運営に深く関与している主に特養を指す。

今回、集英社オンラインは、県の内部資料『老人福祉施設整備費(大規模補助事業)要望一覧』を独自に入手。この資料には、19~24年度にかけて同事業に申請を行なった56施設と、そのうち実際に採択され補助金を受けた45施設の法人名、施設名、所在地などが詳細に記されていた。

なかでも目を引くのが、政治家が関与する施設の“採択率”である。21年度以降に補助を受けた28施設のうち、地元の有力政治家が運営に関わる施設は7つ。全体の4分の1に達していた。

大澤正明前知事は退任後、法人の理事長となり、自身が関わる施設で2度の補助金を得ている
大澤正明前知事は退任後、法人の理事長となり、自身が関わる施設で2度の補助金を得ている
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さらに、複数回申請を行ないながら一度も採択されなかった施設がある一方、わずか4年の間に2度の採択を受けた“政治家の施設”は3施設に上る。

補助金の分配に、公平性は保たれていたのか。そこに、政治的な恣意はなかったか。#5で、関係書類と証言をもとに、その内情を徹底検証する。

文/集英社オンライン編集部