エンタメとして年俸は公開すべきだ

ヤクルト内野陣の司令塔としてゴールデングラブ賞を通算10回受賞した男は、フィールド同様に俯瞰して野球界全体のバランスとイメージを常に考えていた。

自分たちは権利を主張する労働組合の構成員であるが、一方でエンターテイメントとしてのプロ野球を輝かせるファンにとってのスターでもあらねばならない。

あるときの総会で選手から、「選手名鑑に年俸を載せないで欲しい」という意見が上がったことがあった。個人情報でありプライバシーに関わることを嫌がる気持ちがそこにはあった。しかし、これを宮本は即座に却下した。

「僕はそれはダメだと言ったんです。お客さんが試合のチケットを買って下さることで、僕らの給料は確保されているじゃないかと。ファンがあって成り立っているし、それなのに年俸を隠すというのは、違うんじゃないかと思ったんです。

お客さんはそこに夢を見たり、興味を持つ。自分たちは見られている存在で年俸は公開してしかるべきです。やっぱり、自分らだけが得をするという主張は良くないと思ってるんで、時には譲歩したり、損もしないといけない」

写真/共同通信社
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移籍しやすい制度の整備

宮本は、自らが定めた3年間という短い在任中にFA取得期間の短縮(9年から8年)とともに、それに伴う「補償金制度の改善」と「故障者特例措置」を勝ち取る。宮本は補償金について、チームメイトの真中を例に出してメディアに説明を施していた。

「うち(ヤクルト)の真中がFA宣言して残留しましたが、仮に年俸1億円の選手が宣言した場合、補償金は1.2倍ですから、取ろうとする球団は所属する球団に別に1億2千万円を払わなくてはならない。これが無ければ、欲しがる球団は他にもいると思うんです」

出場機会を求めて新天地へ行きたい選手がいて、それを求めるチームがあってもこの補償金がネックになる。経営者サイドからすればビジネスになるが、割合が高過ぎないか。

この改善を求めたことで、2008年からは年俸の高い順にA~C(Aランク:上位1位〜3位、Bランク:上位4位〜10位、Cランク:上位11位以下)とランク分けされて、Aランクは旧年俸の80%(人的補償が伴う場合は50%)の補償金となった。

一方、「故障者特例措置」は、ケガをしたことで選手登録を抹消されてしまい、FA取得のために必要な日数が消化できない選手を救済する制度で、特定の条件(前年の出場選手登録が145日以上)を満たせば、抹消されていても実績を考慮して登録日数を60日までカウントするという措置である。

福留孝介(中日)はこの制度の適用によりFAを取得した第一号選手として2008年にシカゴカブスにFA移籍を果たしている。

「メジャーは故障者リストがあってケガをした人でもFA日数がカウントされると聞きました。僕もオリンピックの経験があるので分かるんですが、今はWBCと試合数の増加でケガのリスクが多くなっています。

プレッシャーのかかる国際試合で頑張ってケガをしたら、FA日数が溜まらない。それはおかしい。FA取得期間はそれでなくても長いので、この特例措置は短縮も含めた部分につながると思って取り組みました」