抵抗した場合は重症のリスク…最小限でしのぐには防御姿勢を

クマから攻撃を受けた人は、頑強な体の男性よりも年配の人や小さな体の女性のほうが多い印象がある。クマは相手の力を品定めしている可能性もあるというが、クマに攻撃されたら反撃するべきなのか。

「腕に自信があるのなら、できるかぎりの抵抗をして撃退するのも一つの手です。実際、蹴ったり、拳や棒で叩いたりして防御し、それで逃げ切れた人もいるので、無駄だとは思いません。

ただ、相対する形で撃退することになると、顔を狙われますので、命に別状はなくても、鼻や目が取れたりする重症を負う可能性があります。そうなるリスクもあるという覚悟が必要です。

顔を狙うのは、やはり急所として認識しているんでしょうね。立ち上がって攻撃する光景がよく描かれますが、大半は人間を倒して攻撃するんだと思います。突進していくと、人間が倒れるので、そこにのしかかって顔を嚙んだりひっかいたりするんじゃないかと」

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

できるだけ自分の身を守りたいなら、地面に伏せて両手で首を守る防御姿勢をとることが肝要だと山﨑教授は語る。

「名前は明かせませんが、クマの研究者でクマに襲われた方がいます。その方も、あまり抵抗せず、腹ばいになって急所を守るこの防御姿勢をとった。それでも背中と頭を嚙まれたそうですが……」

クマは抵抗すると、嚙んだり、はたいたりする行為を続けるという。要するに、相手が怖くて襲っている部分もあるのだとか。捕食のために息の根を止めようとしているわけではないため、相手が抵抗しない、危害を与えてこないと認識すれば、その場を立ち去るが、それで安心して動いてしまうと、クマが舞い戻ってきて再び攻撃してくることもあるので注意が必要だ。

「普段はクマを追いかけている私も、突然目の前に迫ってきたときは落ち着いてはいられません。やってはいけないことですが、思わず逃げてしまったこともあります。

防御姿勢をとってもケガをする可能性はありますが、お尻を嚙まれて縫ったとしても、それほど生活の品質は下がらない。でも、顔を攻撃されて目や鼻が損傷すると、生活に支障が出てしまいます。

とくに腕力のない女性や子供は、無駄に抵抗せず、防御姿勢をとって最小限のケガでしのぐしかないのではないでしょうか」

カキの樹皮に付けられた爪痕(『ドキュメント クマから逃げのびた人々』より)
カキの樹皮に付けられた爪痕(『ドキュメント クマから逃げのびた人々』より)

クマよけスプレーについてはどうだろうか。

「突然クマと遭遇して冷静に対処するのは難しいので、練習しておいても、とっさのときは使いこなせないかもしれません。私自身、クマよけスプレーで攻撃を防いだことはあります。うまく防御できたのは、そのときはクマの行動の予測ができていたからです」