クマの行動原理を知ることで遭遇する確率は下げられる
クマの被害に遭わないためには、何よりも「出会わないよう最大限の努力が必要」と、山﨑教授は言う。
「人慣れしているクマは別として、基本的にクマは人間と遭いたいとは思っていない。通常は、人間の気配に気づけば、そこから逃げるか、姿を隠します。
ですから、山の中ではクマに先に気づいてもらうことが大事。クマ鈴を鳴らしたり、声を出したりして、音によって人間の存在を知らせることは、そういう意味で有効です。
人間も勝てない相手は避けますが、クマも相手がどれぐらい脅威なのかを判断してから攻撃するようなので、複数で行動するというのも得策です。たいてい襲われるときは一人のときが多い。クマもおそらく多くの敵には立ち向かっていきたくないのでしょう。
また、クマが人間の存在に気が付きにくい自然条件というのもあります。たとえば、雨が降っているとか、風が木々の枝を鳴らしているとか、川の近くで瀬音が高いとか。そういうところでは、とくに注意しなくてはいけない。
それから、クマは生活の痕跡を結構残します。フン、爪痕、足跡、食痕、木が折れている……など。そういうものを発見したら、そこには近づかないこと。判断がつきにくいかもしれませんが、そうした心構えをして歩くだけでもかなり違うと思います。
つまりは、街で治安の悪いところは避けて歩くように、山でも危険なところは避ける。最近は山の麓のビジターセンターでも、クマの出没マップを出しているので、それを参考にするのもいいでしょう」
山に入る際は気を引き締めることができるが、昨今は、市街地での被害も増加している。不幸にも街中でクマとばったり出会ったときには、どう行動すればいいのか。
「それには明確な答えはないですね。個体にもよるし、そのときの状況によっても違う。ただ、野犬が逃げると追いかけてくるのと同じで、慌てて逃げると後ろからのしかかられてしまうので、少なくとも背中を向けて逃げるのは避けたほうがいい。とはいえ、クマに遭遇して冷静になれる人はいないでしょう。クマに出会ってからどうなるかは“運”だと思います」