「国民に共感してもらえたら、どんな狂気も奇跡に変わる」

 完全に追い込まれた小泉氏は起死回生の「奇策」に打って出た。それが参院で否決された郵政民営化法案を「国民に聞いてみたい」と記者会見して、衆院解散に打って出たのだ。

そして造反した議員には自民党の公認を与えず、「刺客」として次々と対立候補を送り込んだ。その実務を担ったのが選挙を仕切った武部幹事長(当時)だ。

その二人から郵政民営化解散について「伝授」してもらう、それが「大の会食嫌い」が貴重な読書時間の日曜夜に3時間も割いて「和田倉」に駆けつけた理由だったのだ。

筆者は議員を引退する直前に純一郎氏にインタビューをしたことがある。時は麻生政権末期、民主党への政権交代がみえていたころだ。純一郎氏はこう語っていた。

「郵政解散ってのはまさに狂気だった。参院で法案を否決されて衆院を解散したんだから、よくあんなめちゃくちゃなことをしたと思うよ。だけどね、国民に共感してもらえたら、どんな狂気も奇跡に変わるんだよ。総理ってのはそれぐらい権力を、ものすごい権力を持ってんだから。ただ、使いこなすには国民の共感が必要なだけなんだ」

石破総理にとっての「抵抗勢力」とは何か 

結果的には地滑り的な勝利を自民党にもたらした純一郎氏の振り返りだ。いまでもそのメモは保存してあるので、16年ぶりに開いてみた。この日の会談でも、純一郎氏は郵政解散を熱く語る場面があり、その様子を石破総理は神妙な表情で聞いていたという。

郵政解散の本質は「私に反対する勢力はすべて抵抗勢力だ」として、法案への反対者には衆院解散したうえで公認権を剝奪し、刺客を立てて徹底的に潰しにかかるという自民党内の権力争いだった。

そのときに亀井靜香氏は公認されずにあの「ホリエモン」を刺客に立てられた。いまは「影の総理」といわれる森山幹事長も公認されずに自民党を追い出されている。その劇場型の対立が国民的な熱狂となって、自民党と純一郎氏に地滑り的な大勝利を与えた。

それでは石破総理にとっての「抵抗勢力」とは何か。それは「裏金」と「旧統一教会」という旧安倍派の面々だ。まさにいま「石破降ろし」に動いている抵抗勢力といえる。