「野球おもんない」とかすぐ言い出す選手を説得
大阪桐蔭&履正社以外が夏の大阪大会を制したのは、南北2校の出場となる記念大会を除けば、実に10年ぶり。東大阪大柏原が、石川慎吾(現ロッテ)らを擁した11年以来の甲子園出場を決めた。
同校を率いる土井健大監督は、その“2強”の一角、履正社を経てオリックス・巨人でもプレーした元プロ野球選手。2018年秋の就任から、苦節7年目にしてついに、分厚い扉をこじ開けた。
「桐蔭、履正社、大阪学院大高。この3校と当たるのが決勝の一度だけなら、工夫次第でウチにも勝機はあるとは思っていました。ただ、本当にやってくれるとはね…(笑)。この7年間は、負けて反省して、次勝つためにどうすればいいかを考えて、っていう、その繰り返し。今回勝てたのも、これまで巣立っていった子たちとのトライ&エラーの賜物やと思ってます」
環境の整った私立校とはいえ、入学してくる生徒たちは十人十色。野球に懸ける思いにはむろん、バラつきもある。個々の能力を引き出しながら、いかにチームとしてまとめるか。
曰く「口では“甲子園”と言いながら、“野球おもんない”とかすぐ言い出す」一筋縄ではいかない選手たちを相手に、指揮官は「自己満足の練習だけはするな」と懇々と説き続けた。
「ただ闇雲にやるんじゃなく、設定した目標から逆算して、いま何が必要かを考える。まずそれをやってほしくて、座学の時間を増やしたり、あえて練習を止めさせたりっていうことは意識的にやりました。とくに寮生活の子たちなんかは、放っておいたら、際限なくやってしまう。それよりもしっかり疲れを取ることのほうが大事やぞ、って話はよくしましたね」
疲労が蓄積すれば、それだけ怪我のリスクも増えていく。それまでの経験上、夏本番を迎えてから、俗に言う“かかった”状態になる選手が多いことも気になった。
それよりも、そこに至るまでの準備こそが肝心かなめ。否が応でも力の入る大阪桐蔭との決勝戦でも、「おまえらのことなんて誰も見てない」と、気が逸る選手たちを落ち着かせた。
「そういうある種の“マインドコントロール”が利いたのか、決勝を観ていた人からは“柏原の選手がめっちゃ強そうに見えた”とも言われましたけどね(笑)。でも、ウチには“プロ注”と形容されるような超一流は、ひとりもいない。野球を知り、一つひとつのプレーの意味を考え、それをチーム全体で共有する。やってきたことは、その積み重ねでしかないんです」