大谷のような怪物が生まれる条件
その後の夏の岩手大会では、甲子園出場こそ逃したものの、準決勝の一関学院戦でアマチュア史上最速の160㎞/hを記録。
しかし、決勝で盛岡大附に敗れた。この年の岩手大会は盛岡でプロ野球のオールスターゲームが開催されたため、準決勝から決勝まで約1週間が空いたが、盛岡大附はこの期間に大谷対策をしたのだ。
「大谷君対策として155キロぐらいの速球を想定して1年間打ち込んできましたが、準決勝で160キロを出したものだから、急遽、マシンの球速をアップさせて対策しました。連打は期待できず、単打では点が入らない。長打狙いで臨んだところ、二橋がやってくれました」
大谷自身は「最後は甲子園に行くもんだと思って頑張っていたので、最後の最後に負けたのは悔しかったですね。決勝で負けたときは、初めは実感がなかった。『もう終わりなのかな……』って。何日か経って、僕ら3年生の練習はある程度の区切りというか、2年生が主体の練習になっていく。毎日毎日練習をしてきて、いきなり練習がなくなるのを実感すると『ああ、終わったのかな』と思いましたけど」と振り返る。
大谷の場合、どのような状況でも野球を楽しんでいるように感じる。この楽しさや夢中に取り組む姿勢も世界一の選手となったいまの大谷を作り出しているだろう。
大谷と同様にメジャーリーグでさまざまな記録を塗り替えたイチロー氏も、「努力を努力だと思ってる時点で、好きでやってるやつには勝てないよ」と言っているぐらいだ。
つまり、「努力を努力とも思わない」領域のなかで、できているかも重要なのだ。気がついたらそのことを考えてしまっている、まわりは「努力できてすごい」と褒めるが、まったく自分はそれに気づいていない。これは、野球そのものにのめり込んでいるからだろう。
夢中になりながら野球に取り組むからこそ、自主性も生まれていく。全体練習のほかに自主練習をしている選手は、追い込んでいるというよりも、夢中で野球が上手くなるように練習をしているため、きつい感情なども感じることはないだろう。
大谷のように挫折などを乗り越え、夢中になることで、目標やプレッシャーを含めたすべてを楽しめることが、リミットを超えた選手になれる源泉かもしれない。