あの夏に“ハンカチ王子”が見せた投球
10年ぶりの夏となった早稲田実業の初戦の鶴岡工戦は、投打で圧倒。初回からソツのない攻撃をして、18安打13得点を記録するなど順調に勝ち進む。
2回戦の大阪桐蔭戦で、斎藤は前年の甲子園を沸かせた中田に対して3三振を奪うなど、センバツ優勝校の横浜を圧倒した大阪桐蔭打線から合計12奪三振で完投。この試合で、斎藤はさらに注目を浴びて、この大会を通して主人公のような存在になっていった。
早稲田実業は、順調に勝ち上がったが、決勝戦の球場の雰囲気は、駒大苫小牧に味方していた過去2年とは打って変わり、「ハンカチ王子」と呼ばれた斎藤に声援が飛び交う。
決勝はお互い譲らない展開で延長15回まで決着はつかなかった。斎藤のピッチングを見ても、駒大苫小牧打線を圧倒していたように見えた。
センバツの関西戦と同様に15回を一人で投げ抜いたが、7回まで被安打1、最終的には16奪三振・1失点とこの上ないピッチングを見せた。
とくに、延長11回は一死満塁のピンチでスクイズを落ちる変化球で空振りさせるなど冷静さも保っていた。なんと言っても四球も4つとコントロールのよさも見せたのだ。
ストレートも最後まで球威が落ちないのを見ると、駒大苫小牧側からすると不気味な存在だっただろう。
翌日の再試合では初回から早稲田実業が先制。ビハインドになった直後に、駒大苫小牧先発の菊地は降板し、田中がマウンドに上がる。
それでも終盤になると田中に疲れが見えはじめ、追加点を許し8回終わって1対4と、早稲田実業がリードを奪った。
9回になると駒大苫小牧は意地を見せ、中沢が1点差に迫る2ランホームランを放つが、最後は斎藤が田中を三振に斬ってとって早稲田実業が頂点に立った。
斎藤がほぼ一人で投げ抜いて優勝投手になったことは、いまの高校野球においては賛否が分かれる。
一発勝負の甲子園では一番実力のある投手が投げ続けることで勝率を上げることにつながることは確かだが、一人の投手を投げさせ続けることは、その選手やチームの将来にも多大な影響を与えてしまう。この起用法の是非については正解がないとしか言いようがない。
ただ、一つ言えるのはこのときの斎藤は、高校野球の魅力を最大限に表現できたということだ。
このときの斎藤は「頭は冷静に、心は熱く」を体現していた。140㎞/h後半のストレートやフォーク、スライダーを上手く活かし、打者の様子を冷静に見られる高校生離れしたクレバーなピッチングは、すぐにプロ入りしていれば活躍できた可能性もあるだろう。
プロでも活躍できるほどの実力だったからこそ、大学入学後すぐに活躍できたのだろう。