加害者家族を追い詰める偏見と排除

ここまで述べてきたように、加害者家族の生活は事件発覚後に一変し、心理的・社会的・経済的な問題に一気に直面することになります。

あらゆる犯罪のなかでも、とくに性犯罪は白眼視されます。性に関する話題がタブー視されがちな日本ではなおさら、性犯罪では加害者と被害者のみならず、加害者家族も偏見にさらされます。性犯罪の加害者は、「教師と生徒」「上司と部下」など権力や信頼関係を利用して犯行に及ぶことが少なくありません。そのため、社会的な非難がいっそう強まります。

幼い子どもが被害に遭う小児性犯罪事件では、社会からの応報感情がより大きく、被害者と同じ年代の子どもを持つ近隣の親たちの不安感情が高まるため、性犯罪の加害者家族に対しても、より厳しい「世間の目」が向けられる傾向があります。

*1 斉藤章佳『男が痴漢になる理由』イースト・プレス、2017年

文/斉藤章佳 写真/shutterstock

『夫が痴漢で逮捕されました 性犯罪と「加害者家族」』(朝日新書)
斉藤章佳
『夫が痴漢で逮捕されました 性犯罪と「加害者家族」』(朝日新書)
2025/6/13
957円(税込)
224ページ
ISBN: 978-4022953209

家族も連帯責任で“人生終了”!?
一家離散、ネット私刑、そして自死――
社会から排除される「加害者家族」の“生き地獄”と再生に迫る。


痴漢、盗撮、レイプ、子どもへの性加害……
連日報道される性暴力事件の卑劣な加害者たち。彼らにも家族がいる。
SNSでは個人情報をさらされ、婚約は破棄、職場も追われ、転居を余儀なくされる。
知らない番号の着信やチャイムの音に怯え、やがて自死を考えることも。

あらゆる犯罪のなかでも、とくに世間から白眼視されがちな
「性犯罪の加害者家族」の悲惨な“生き地獄”とは?
家族が償うべき「罪」はあるのか?
1000人を超える性犯罪の加害者家族と向き合い続ける専門家が、
支援の現場からその実態を報告する。

【目次】
第1章 ある日突然、家族が性犯罪で逮捕された
・「加害者の家族というのは、幸せになっちゃいけないんです」
・ケース①:痴漢を繰り返した元高校球児
・ケース②:妊娠中に夫が盗撮で逮捕、それでも別れない妻
・ケース③:「優等生」の息子が女子生徒の着替えを盗撮
・ケース④:小6の娘が妊娠、相手は中2の兄 ……ほか

第2章 加害者家族の「生き地獄」
・刑事手続で家族がすべきこと
・裁判での経験がトラウマに
・母親に責任を押しつける「子育て自己責任論」
・夫の痴漢はセックスレスが原因?
・加害者家族が怯える「世間」とは何か ……ほか

第3章 なぜ加害者家族を支援するのか
・両親は夜逃げ、弟はうつ、姉は自死……加害者家族の末路
・加害者家族1000人へのアンケート
・複数回の逮捕でようやく治療につながる
・一番の悩みは「誰にも話せないこと」
・家族会でも排除されやすい「子どもへの性加害」 ……ほか

第4章 それでも日常は続く
・「このまま刑務所にいてほしい」家族の本音
・知らない番号からの着信に怯える日々
・家族に加害者更生の責任はあるのか
・「親が犯罪者」のレッテルは大人になっても続く
・子どもに事件をどう説明するか ……ほか

第5章 加害者家族との対話
・音信不通の息子は留置場にいた
・「育て方が悪かった」と裁判で責められる
・2度目の逮捕で実刑判決
・息子に伝えた自身の性被害経験
・わが子の婚約に抱く複雑な思い ……ほか

第6章 その「いいね」が新たな被害者を生む
・報道されるかどうかは運しだい
・文春砲の功罪
・「SNS私刑」に振り回される加害者家族
・「日本版DBS」で子どもへの性加害を防げるか
・加害者家族を知る映像作品 ……ほか

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