裁判での経験がトラウマに

刑事裁判では、加害者の親やパートナーが「情状証人」として出廷することは珍しくありません。情状証人とは、裁判で被告人の量刑を定めるにあたって酌(く)むべき事情を述べる証人のことです。

事件を起こしたことで加害当事者が家族から見放されるケースもありますが、弁護士との相談のうえ、家族が彼らの人となりや日常の様子を説明し、更生の可能性が高いことや、謝罪の意思や償いの姿勢を示すことも少なくありません。

家族が情状証人となる場合、事件を起こす前の彼らについて、「普段は非常に真面目で犯罪を起こすような人物ではない」「こういう経緯があって、今回の事件を起こしてしまった」など性格や事情を述べたり、同居している家族であれば「再犯防止のためにクリニックに通わせる」など判決後に社会に復帰した当事者をきちんと監視する旨を述べたりします。

また、執行猶予付き判決を得るために「刑務所に入ったら残された子どもに影響が出てしまう」など実刑判決による影響を述べることもあります。

ちなみに私自身、加害者側の情状証人として出廷することがあります。ときに「加害者をかばっているのではないか」と言われることがあるのですが、もちろんそうではありません。裁判官や裁判員が適切な量刑を決定できるように、加害者の更生の可能性や治療の道筋を専門家の立場から具体的に示すためです。

「夫婦の性生活はあったのか」「セックスレスだったのでは…」性犯罪を犯した夫の裁判が妻のトラウマになるケースも…加害者家族を追い詰める偏見と排除_2

多くの人にとって、裁判への出廷は非日常の出来事です。情状証人となった場合、加害者の家族は出廷時の打ち合わせを重ねながら、日に日に緊張感が高まっていきます。裁判の日が近づくにつれて食欲がなくなり、不眠になる人もいます。

また裁判当日は、法廷で頭が真っ白になり、自分が何を話したかまったく覚えていないと語る加害者家族も多くいます。刑事裁判は、検察側と弁護側がそれぞれの主張を展開し、裁判官が判断を示す手続きです。そのため、検察は有罪判決を得るために、弁護側の情状証人となった家族に手厳しく問いかけることもあります。

親なら「育て方に問題があったのではないか」と問い詰められたり、妻なら「夫婦の性生活はあったのか」「セックスレスだったのではないか」などプライベートについて踏み込んだ質問をされたりすることもあります。情状証人となった加害者家族のなかには、法廷で思わず泣き出してしまうなど、裁判がトラウマ体験になるケースもとても多いです。

さらに、法廷では被害者側の家族と顔を合わせるケースもあり、加害者家族が大声で罵られることもあります。

たとえ情状証人として出廷しなくても、あるいは傍聴できなくても、家族にとって裁判の行方は非常に気がかりな事案で、その経験は相当な精神的負担になります。