男性のムラ社会の制度やルールのまま女性に活躍を促すとどうなるか…女性の管理職比率の上昇だけを目指すことが招く悲劇
コンプライアンス、ジェンダーといった企業を取り巻く環境が変わり続けている昨今、時代に対応しようとするために、本質を見失い、手段が「目的化」してしまっているケースが多発していると警鐘を鳴らすのが経営コンサルタントの小笹芳央氏だ。特に「女性の管理職比率」の上昇だけを求めることは誤っていると指摘する。
書籍『組織と働き方の本質』より一部を抜粋・再構成し、会社で働く人々が属するレイヤーの違いについて解説する。
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組織と働き方の本質 #1
女性でも男性でもなく「個性」が輝く社会へ そもそも現代は、「女性」でも「男性」でもなく「個性」を重んじる時代だと私は考えます。
少し理屈っぽくなりますが、とても大事な観点なのでお付き合いください。
ここでは、3つのレイヤーで説明します。
まず、第1のレイヤーは、「男性/女性」です。つまりXYの染色体を持っているのかXXの染色体を持っているのかの「生物学的レイヤー」です。
このレイヤーには本人の意思は反映されません。生まれながらに定まった生物としての特性です。アメリカのトランプ大統領の「性別は2つしかない」という発言は、このレイヤーでのものです。ただ、組織や社会の発展・継続のためには「One for all,All for one」の視点が欠かせません。そこで第2・第3のレイヤーで考えてみます。
第2のレイヤーは、「男性/女性/LGBTQ+」などの「性の自己認知のレイヤー」です。これは、「One for All,All for One」の「One」(=個人)の視点からのレイヤーです。このレイヤーでは、個人の指向性や感性を示します。そして、それらは尊重されるべきです。
最後に、第3のレイヤーは、「社会的レイヤー」です。「One for All,All for One」の「All」(=社会)からの視点です。このレイヤーでは、男性/女性/LGBTQ+は関係なく、「個々人の『個性』」が輝くことで社会全体の活力向上や発展を目指すことがテーマです。
ところが、おかしなことに女性管理職比率目標というのは、この第3のレイヤーに、唐突に第1のレイヤーの「性別」を持ち込んでしまっているのです。この論理矛盾を指摘する発言が企業社会であまり聞こえてこないことを、私は不思議に感じています。
書籍『組織と働き方の本質』より
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結論から言えば、「女性の管理職比率」について各企業に一律に数値目標を課すのではなく、1人ひとりの「個性」を大事にする社会、1人ひとりが自分の「個性」をいかんなく発揮できる社会にするために、どんな施策が考えられるのかを本来は議論すべきなのです。
さて、あなたの会社の女性管理職比率はどれぐらいですか? 女性管理職は輝いていますか?
あなたは管理職を目指したいですか? それとも専門職を目指したいですか?
あなたの会社では1人ひとりの個性が大事にされていますか?
写真はすべてイメージです 写真/shutterstock
組織と働き方の本質 迫る社会的要請に振り回されない視座
小笹芳央
2025/4/11
1,980円(税込)
224ページ
ISBN: 978-4296122950
【内容紹介】
「人的資本経営」「パーパス経営」「ジョブ型雇用」
「自律分散型組織」「女性管理職比率」……
トレンドワードに捕らわれず“核心”を捉えよ!
組織変革の第一人者が、経営・マネジメントの“あるべき姿”を解説。
本書は、日本の組織変革の第一人者である著者が「会社とは、いったい何か」「組織は、どうあるべきか」という“本質”を主軸に、経営やマネジメントの在り方を解説するものです。
近年、企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化を続けており、今後の予測が極めて困難なため、「経営の中長期的な見通しがつかない」と言われるようになっています。その影響で、「各企業は世の中の潮流に乗るためにバズワードに飛びつくものの、いつの間にかその本質を見失い、『手段』が『目的化』してしまっているケースが多発している」と、著者は警鐘を鳴らしています。
「人的資本経営」「パーパス経営」「ジョブ型雇用」「自律分散型組織」「働き方改革」「女性管理職比率」「ダイバーシティ」……。実に多様なキーワードが広まり、国や社会からの要請も増えています。しかしながら、それらの本質を見抜くことなく、当面の対応をしがちになり、従業員の時間と労力は会社の見えないコストとして生産性を押し下げ、また対応した人間の仕事への効力感や誇りを奪っているケースが散見されると、著者は分析。
「このままでは、経営者や管理職層、働く人々が徒労感や無力感に襲われてしまうのではないかという憂いと、日本企業の国際競争力がさらに低下してしまうのではないかという危機感を抱くようになりました。私の過去の経験や現在の立場上、どうしてもこのまま世の風潮に対して沈黙していてはいけないという感情に突き動かされたのが、本書を執筆することになった理由です」と著者は語ります。
著者が経営する会社は、経営学・社会システム論・行動経済学・心理学などの学術成果をもとにした基幹技術「モチベーションエンジニアリング」を開発し、国内最大級の社員クチコミデータベース(約1,860万件)や、組織状態データベース(延べ12,650社、509万人)、人材育成関連データベース(延べ11,640社、148万人)など、膨大なデータを蓄積してきました。
本書は、それらをもとにした統計的なファクトデータやコンサルティングの豊富な実例を交えながら、トレンドワードの本質に迫り、組織変革のあるべき姿を描き出します。
経営者や管理職のみならず、人事・経営企画・IR・広報担当者などのコーポレート部門、さらには次世代を担うビジネスパーソンにとっても企業変革のための示唆に富む一冊です。
【目次】
第1章 会社・組織・マネジメントの本質
1「会社」とは、いったいナニモノなのか
2「組織」の成立要件と存続要件
3「マネジメント」の本質的な役割
第2章 社会的要請の本質
1「女性管理職比率」の罠
2「人的資本経営」の真相
3「働き方改革」の困惑
4「日本版ジョブ型雇用」の正体
第3章 個人の働き方の本質
1「働く個人」は「投資家」である
2「ワークライフバランス」の落とし穴
3「キャリアデザイン」の幻想
4「副業・兼業」の是非
第4章 組織変革の本質
1「自律分散型組織」の限界
2「パーパス経営」の成否
3「ダイバーシティ」を深掘る
4「組織変革のメカニズム」を解き明かす
第5章 環境変化適応の本質
1「テクノロジーの進化と仕事」の未来を展望する
2「労働市場適応」のサバイバル
3「均衡状態に安住する」+「手段の目的化」という病