『世界が驚く……』の最大の特徴「日本人の自然観」
二〇〇〇年代から二〇一〇年代にかけて立ち上げられてきた国外・国内向けの「日本らしさ」再定義をめざす戦略的目標の中で生み出されたのが、この官製「日本スゴイ」パンフなのである。『世界が驚くニッポン!』では冒頭から、次のように高らかに宣言されていた。
日本人らしさとは、自然観にあり
自然と一体化しようとする「自然観」、多様な「美意識」、そして「身体感覚」。多角的な観点から考えることで、日本人が見えてくる
エエーッと驚いてしまうが、経産省はこれを本当にパンフレットにしてしまったのだから仕方がない。「日本人らしさとは、自然観にあり」「日本スゴイ」番組のナレーションにありがちな、うっかりスルーしてしまいそうになるフレーズだ。
「日本人らしさ」を説明するにあたって、どうして「自然観」がまっさきに登場するのだろうか。よく考えるとどうしてそう言えるのか、よくわからなくなる不思議感あふれる宣言だ。『世界が驚くニッポン!』では、次のように続けている。
「日本人らしさ」とは何だろう? その核をかたちづくっているのは、日本人独特の自然観ではないだろうか。日本は、四方を海に囲まれた島国であり、山国でもある。南北に長く、四季に富んだ温暖な気候、豊富な水資源、山海の幸……、自然は日本人に、さまざまな恵みを与えてきた。
一方で台風、洪水、豪雪、火山、そして地震など、過酷な試練も課してきた。その中で生まれたのが、自然を畏怖しながらも、自然に自らも溶け込ませ、共生しようとする独自の自然観だ。自然=克服すべき対象とみなした近代西洋の合理的自然観とは対照的だろう。
一読しただけではイマイチ脳に反映しない文章だが、辛抱強く鑑賞してみよう。
まず冒頭で、「日本人らしさ」の核(コア)は「日本人独特の自然観」ではないかと提起されている。どうやら経産省的には「日本人独特の自然観」を持つ者が「日本人」らしいということのようだ。
それにつづく「日本は、四方を海に囲まれた島国……」以降の一文では、「日本人独特の自然観」を形成してきた自然的条件が列挙される。〈四方を海に囲まれた島国であり、山国〉〈南北に長い〉〈四季に富んだ温暖な気候〉〈豊富な水資源〉〈山海の幸〉――これらの自然の「恵み」につづいて、〈台風〉〈洪水〉〈豪雪〉〈火山〉〈地震〉――など、自然による人間に対する「試練」が列挙される。