お金による移動の誘導は立場がわかれる
「政府が個人の移動を金銭的支援によって誘導するべきだと思いますか?」という質問については、どうだろうか。
調査の結果、金銭的な支援による誘導に同意する人は41.2%、同意しない人は42.8%、わからない人は16.0%であった。わからないと回答した人をのぞくと、金銭的な支援での誘導に同意する人と同意しない人は、ほぼ同割合であるようだ。
さらに、金銭的な支援について、さまざまな属性との関連を探ってみると、年収や性別には大きな差はなかったが、年代ごとの回答だと興味深い結果が得られた。それは、若年層ほど政府が金銭的支援によって個人の移動を誘導することに同意する傾向がありそうだというものである(図表13)。最も高い30代と最も低い70代ではかなりの開きがある。
75.4%が移動の制限には同意しない
「政府が個人の移動を制限すること」についてはどうだろうか。調査の結果、同意する人が12.7%、同意しない人が75.4%、わからないと回答した人が11.9%であった。約4人に3人が、移動の制限には同意していないことがわかる。
この結果は当然のようで、よく考えてみると興味深い。わかりやすいのは、コロナ禍における移動制限である。コロナ禍に限定した移動制限については、58.7%が同意すると回答している。つまり、制限に同意する12.7%とは大きな差がある。この差をどう考えるべきだろうか。
一つの説明として、一般的に同意できないと考えられる移動制限でも、コロナ禍のような「緊急事態」「例外状態」であれば正しいと人々は判断し、同意するという説明が導き出される。しかし、例外状態や緊急事態は厳密に定義できるものではない。
どこまでが緊急事態なのか、何をもって例外状態なのか、それは社会的に醸成される雰囲気、政治的な判断、個々人の認識などによる。私たちの多くは移動を制限されることに反対する一方で、特定の条件下であれば意外と移動の制限に理解を示してしまうのかもしれない。
文/伊藤将人 写真/shutterstock