「農奴」の状態から脱するには

石田 それに加えて、やっぱりリテラシーが足りない。「農奴」の定義とは何でしょうか? 歴史的には、農奴は、文盲の状態におかれていたのですよ。「リテラシー」って、「文字を読み書きする力」です。「農奴」がその身分から脱するために必要なのは、「リテラシー」です。

特にコンピューター・リテラシーが全然足りていないと思うんです。そもそも、「コンピューターってどうなっているのか?」ということを知っている人が本当に少ない。中を開けてみたこともない。操作はできても、仕組みまでは知らない。そういう人たちは「コンピュータ文盲」なんです。だから、デジタル領主たちに好きなように「農奴」にされてしまうんです。

昔、といっても、ぼくたちが若かった1960年代半ばですが、ウォズニアックやスティーブ・ジョブズの時代は、自分たちでコンピューターを手作りしていたんですよ。1960年代には、そういったムーブメントが国家主導のスーパーコンピューターの時代への対抗として起こって、パーソナル・コンピューターが「リベレーション(解放)」の象徴だった。

既に我々はテック企業の奴隷である…単に「パソコンが使えます」ではなく、「プログラムの仕組み」を理解することがクラウド農奴からの脱却の鍵 _3
すべての画像を見る

いまは、子どもたちがプログラミングを少しずつ学べるようになってきていますよね。僕が思うのは、かつて農奴が文盲であったように、いまの農奴化は「コードが読めない」「仕組みがわからない」という意味での「情報的文盲」化なんです。だから、これを変えるためには、もう一度、啓蒙が必要だと。

ただ単に「メールが打てます」「パソコンが使えます」ではなく、「プログラムってどういう仕組みで動いているのか」「この操作の裏で何が起きているのか」──そういう背景を、少しでも理解できるようになること。それが農奴の状態から解放される第一歩だと思っています。

さらに言うと、最近ではAIに「こういうプログラムを書いて」と頼むと、ちゃんと生成してくれるじゃないですか。昔みたいにプログラミング言語をひとつずつ覚えてコーディングしなくても済むようになってきた。つまり、技術との関係性を変えられる手段は実はすでに手の中にある。

それをどう活用するか。それによって、テクノロジーとの関係性も、ただの受け身ではなく、もっと能動的に捉えられるようになる。そうなっていけば、封建制的な構造にも、少しずつ対抗できるようになるんじゃないでしょうか。そこから希望が見えてくるはずです。

構成/斎藤哲也

テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。
著者:ヤニス・バルファキス、解説:斎藤 幸平、訳者:関 美和
テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。
2025年2月26日発売
1,980円(税込)
四六判/320ページ
ISBN: 978-4-08-737008-9

◆テック富豪が世界の「領主」に。
◆99%の私たちを不幸にする「身分制経済」
◆トランプ&イーロン・マスク体制を読み解くための必読書

グーグルやアップルなどの巨大テック企業が人々を支配する「テクノ封建制」が始まった!
彼らはデジタル空間の「領主」となり、「農奴」と化したユーザーから「レント(地代・使用料)」を搾り取るとともに、無償労働をさせて莫大な利益を収奪しているのだ。
このあまりにも不公平なシステムを打ち破る鍵はどこにあるのか?
異端の経済学者が社会の大転換を看破した、世界的ベストセラー。

【各界から絶賛の声、続々!】
米大統領就任式で、ずらりと並んでいたテック富豪たちの姿に「引っかかり」を感じた人はみんな読むべき。
――ブレイディみかこ氏

テクノロジーの発展がもたらす身分制社会。その恐ろしさを教えてくれる名著。
――佐藤優氏

これは冗談でも比喩でもない! 資本主義はすでに死に、私たちは皆、農奴になっていた!
――大澤真幸氏

私たちがプレイしている「世界ゲーム」の仕組みを、これほど明快に説明している本はない。
――山口周氏

世界はGAFAMの食い物にされる。これは21世紀の『資本論』だ。
――斎藤幸平氏

目次
第一章 ヘシオドスのぼやき
第二章 資本主義のメタモルフォーゼ
第三章 クラウド資本
第四章 クラウド領主の登場と利潤の終焉
第五章 ひとことで言い表すと?
第六章 新たな冷戦――テクノ封建制のグローバルなインパクト
第七章 テクノ封建制からの脱却
解説 日本はデジタル植民地になる(斎藤幸平)

amazon 楽天ブックス セブンネット 紀伊國屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon