「子どもたちに『自分たちにできることは何か』と考えてもらうきっかけになれば」
農家の高齢化による後継者不足が課題となっている新潟市。前述の事業が目指すものとして、「スマート農業や6次産業化など、農業のイメージを転換させる取り組みについても学ぶことで、将来、食や農の産業を様々な面から支える人材の育成につなげる」こともあるという。
ちなみに「6次産業化」とは、農業(1次産業)の従事者が、加工(2次産業)、流通・販売 (3次産業)まで取り組むことをいう。
では市内の学校が「手植え」の体験をしていないのかというと、そういうわけではないと担当者は話す。
「『手植え』や『手刈り』体験をしている学校もあります。ただ、そうした体験にとどまらず、農業の未来について考えるような機会になれば、という思いもあります」
実際に学習に取り組む子どもたちの反応はどうなのだろうか?
「長期間の学習になるので、スマート農業も取り入れた最近の農業について学んでいく過程で『そうした施設や設備があることを知らなかったから、知る機会になってよかった』という声が多くあります。
『農業の担い手につながる』という形が一番理想的かもしれません。ですが、それだけではなくて、『自分たちが食べているものは地域の方々がこうやって作っているんだな』ということを知ってもらい、身近に感じてもらって、『自分たちにできることは何か』と考えてもらうきっかけになればと思います」
新潟市の取り組みは、全国有数の農業都市ならではの実践的なものであると言えるだろう。しかし、いっぽうで田植え体験にはこんなトラブルもある。
静岡県浜松市内で環境保護に取り組む、あるNPO団体の理事長(70代)は「10年ほどやったのですが…本当に大変だった」と当時のことを語る。
「近所に湧き水を使ってコメ作りをされていた農家の方がいたので、ウチが一部を借りて無農薬の『田んぼ体験』を地域の子どもやNPOの会員さん向けにやっていました。田んぼにはドジョウやタガメもいて、子どもたちは大喜び。小学校の5、6年生の遠足でも使われて裸足でみんな田んぼに入っていました。
でも、いろいろ大変でね、一番は草刈り。借りた田んぼの近所が農薬を使うところだったから、草の種が田んぼに入らないように、こまめに草刈りをやるのがしんどかった。それに無農薬だから、虫も出るので近隣からのクレームもあって、よく近所に菓子折りを持っていきました。子どもたちへの影響も考えて他の農薬を含んだ水が入らないように、気を遣うことが多かったですね。
あと熱中症対策で、水分補給のために子ども用の麦茶も準備したのですが『容器が汚い』と保護者からクレームを言われてしまうこともありましたね。
地域貢献、ボランティアでやってたから息子には『お金にもならないし無理するな』とよく怒られました。結局体力もなくなり、いろいろ疲れてしまって田んぼはやめました」
食べ物へのありがたさを教えてくれる農業体験。それを支える大人たちには、知られざる苦労があった。これらの取り組みが、将来、実を結ぶことを期待したい。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班