世界へ向けて強く訴えかけた「日本のことを忘れないで」
それから30年後。
『忘れないわ』は、シンディの来日コンサートで披露された。しかもそれは強いメッセージソングに生まれ変わっていたのである。
東日本大震災から約1年後、シンディは2012年3月12日に行なわれた日本外国特派員協会の記者会見で、「日本のことを忘れないで」と、世界へ向けて強く訴えかけた。
東日本大震災は大変に悲しい出来事でした。でもみんな前へ進もうとしています。「日本のことを忘れないで」と皆さんに言いたいのです。忘れてほしくないのです。愛を送ることを忘れてほしくないのです。
前年、まさに地震が起こった日に、公演のために来日したシンディは、我が事のように日本の人たちのことを心配していた。
自分に出来る事が何かないのかと、いつも心を痛めて行動しようとした。そして帰国の際には必ず帰って来ると言い残して日本を去ったが、約束を忘れることなく1年後に戻って来てくれたのである。
若い女性が歌えば単なるラブソングにしか聞こえない歌詞なのに、未曾有の震災に見舞われた「日本のことを忘れないで」という願いが込められたシンディの歌からは、思いもよらぬほどのリアリティが放たれることになった。
その時、忘れられていた歌に、新しい生命が灯されたのだ。「ワスレナイワ、アナタヲ、アイスルヒトヨ、ワスレナイワ」と、ア・カペラで一生懸命に歌うシンディの姿に、コンサート会場の客席で涙する人も多かった。
シンディの日本語による「アナタ」や「アイスルヒト」は恋人を意味しているが、それ以上にもっと大きな対象に愛を訴える祈りがあった。
シンディは日本の報道機関の取材を通じたインタビューでも、最後には「オーケー、がんばって、わすれないわ」とメッセージを言い続けた。
2015年のツアーは、不滅の名盤であるデビューアルバム『シーズ・ソー・アンユージュアル』のリリース30周年を記念するライヴとなった。それでも『忘れないわ』は、セットリストから外れることはなかった。
2025年4月19日からスタートする、日本でのフェアウェル公演。この歌はきっと歌われるに違いない。
文/佐藤剛 編集/TAP the POP サムネイル/Shutterstock
参考/引用
シンディ・ローパー&ジャンシー・ダン著「トゥルー・カラーズ シンディ・ローパー自伝」(白夜書房/翻訳:沼崎敦子)