いい物件を見つけても貸し出しを断られたことも…
今住んでいる3LDKの概略図をスマホで見せつつまた愚痴る。
「玄関ドアの位置をもっとこっちにもってくるべきですよね。外のスペースが無駄になっています。内のこの部屋は内側にドアが180度開く構造になっているのですが、これだとその周りに物が置けないです」
他にもベッドルームの空間割りがおかしいなどの指摘が次々に出て、しまいには賀氏は「これをデザインしたデザイナーは香港だとクビですね」と断言した。
中国では改革開放まではソ連式の共同住居がよく見られたが、1980年代から不動産デベロッパーが世界各国の様式を取り入れ、真似ていったのだという。そうした視点からは、日本のデザインが奇妙に映るのだ。
これまで住んでいた香港では「内覧した次の日には契約できて、その日の夜には住みはじめられる」のが普通だったので、日本における不動産探しの面倒さに閉口した。物件がないというだけでなく、いい物件を見つけても貸し出しを断られたこともあった。
「日本語が話せないこと、安定した収入がないことを理由にダメだと。どれだけ資産があってもダメなんです。2年間分の家賃を前払いで全部払うと言っても!」
と、奥さんはあまりの馬鹿馬鹿しさに呆れ返っていた。夫妻は結局、来日すぐのころはまず友達の家に居候し、その後ホテルへ移り、さらにはホテル型マンションを半年借りる羽目になった。
奥さんの張氏は、東京生活の不便さをさらに訴えてくる。
「中国ではクレジットカードの限度額を30万元(約600万円)まで上げることができました。日本では上限が30万円で、どれだけお金をもっていても、次の月まで待たなければいけません。コストコやETCでも迂闊にクレジットカードを使っていられません。それでなくても最近は家具を買ったりしないといけないのに!」
「日本で老後を過ごす意欲が下がりました。娘がインターを卒業したら他の国に移るかもしれません」
賀氏はがっくりと肩を落とした。
文/舛友雄大 サムネイル/Shutterstock