不敵な笑みを浮かべて
この事件を巡っては、警視庁が実行犯とされる中国籍の男3名の逮捕状を取り、指名手配をしているが現在まで姜被告以外は逮捕には至っていない。
姜被告は、幼少期から日本への渡航を憧れていたというが、2023年8月の「ある出来事」から日本に失望して、犯行に及んだという−−。
そんな男の裁判が始まった。
法廷の横のドアから拘置所職員らに連れられて入廷してきた、上下灰色のスウェット姿の姜被告。傍聴席を見渡して、不敵な笑みを浮かべる。
起訴状によると、姜被告は男らと共謀のうえ、今年5月31日午後9時55分から午後10時ごろまでの間に、靖国神社にある神社名が刻まれた石製の「社号標」に、赤いスプレーを噴き付けて「Toilet(トイレ)」と落書きして損壊(損害見積額462万円)し、礼拝所に対して公然と不敬な行為をしたとされている。
罪状認否で、裁判官に「どこか間違っているところはあるか」と問われ、
「間違いありません」
とハッキリとした口調で彼は認めた。
姜被告は、2013年に留学ビザを取得し入国。入国後は、会社員として働き、在留期間は2025年1月までだったという。
検察側は動機について、昨年12月に姜被告は共犯者とされている中国籍の配信者Bの動画を見て、Bの反日的な活動に共感し、強い憧れを抱いていたと指摘。
姜被告はBへSNSでこうメッセージ送った。
《すごく尊敬している。憧れている》
Bは、中国版TikTokにあたるSNSでフォロワーが約400万人を超えるインフルエンサー(現在、アカウントは凍結)。
反日的な活動のみならず、中国国内でも食品の不正を暴く動画を撮影・投稿するなどしており、中国では超有名な「暴露系配信者」だった。
そんなBは、2023年8月から開始されている東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を受けて、ターゲットを日本に変えた。
Bの抗議活動に共感した姜被告は、今年4月には《あなたにすごく会いたい。私にできることがあれば言ってください》とのメッセージを送ったこともあったという。
そんな彼らが犯した事件の詳細はこうだ。
検察側の冒頭陳述や証拠によると、今年5月初旬にBから姜被告のもとに「日本へ行く」との連絡がきたことから、宿泊先を確保するなどした。
その後、Bから《靖国神社で抗議する》とのメッセージを受けて、同月28日には靖国神社へ下見に行った。
翌29日には、Bらが成田空港から入国。この日、姜被告とBらは初めて対面。
また、犯行に使用された赤色スプレーを入手したのも、姜被告だという。Bの指示を受けて、秋葉原の雑貨店で購入したといい、購入時には店員に対して「壁に使えるか、屋外で使えるか」と執拗に聞いてきたと従業員が供述していた。
犯行当日の31日は、Bらとともに電車を乗り継いでJR飯田橋駅に行き、姜被告は駅付近で待機。その間、Bらは靖国神社へ行き、犯行に及んだのだ。
犯行後、Bらはタクシーと電車を乗り継いで羽田空港に行き、翌6月1日の午前0時頃には中国へ向けて出国している。
証拠調べの後、裁判官は姜被告に対して証言台に座るように促して、被告質問を始めた。なぜか、姜被告は証言台に行くときにも傍聴席を見渡し、はにかんだ。