不同意性交の自覚があった人は1人もいない 

──2023年の法改正によって、セックスコンプライアンスはどのような変化があったのでしょうか?

加藤博太郎(以下同) 従来の「強制性交等罪」「準強制性交等罪」から、処罰要件が大幅に見直され、適用範囲がかなり拡大されています。

旧法において、その構成要件として最も重視されていたのは、暴行または脅迫による「強制性」でした。

一方で、新たな不同意性交等罪における構成要件には、「明確な同意があったことを立証できない状態」における性行為の全てが処罰対象となりました。

警察の動きを見ていると、被害を訴える女性の証言のみで、本格的な捜査に着手する傾向が強く見られます。

伊東純也氏の性加害疑惑で弁護を担当した加藤氏
伊東純也氏の性加害疑惑で弁護を担当した加藤氏
すべての画像を見る

──実際に、法改正をしてから犯罪の数は増えているのでしょうか?

警察庁の統計によると、2024年1〜10月の不同意性交等罪の認知件数は3253件で、刑法改正前の強制性交等罪の前年同期比で1.5倍以上に増えています。

──どういった人が捕まっているのでしょうか?

加害者になるのは9割以上男性で、大手企業の経営者や、有名人が多い印象です。これは、女性が被害を訴えた際、加害者の名前や所属がはっきりしているほうが、警察が捜査に着手する可能性が高いことが要因として挙げられます。

路上でいきなり襲うみたいなケースは本当になくて、パパ活、ギャラ飲み、キャバクラ、ガールズバー、ラウンジなどの飲みの場での出会いを発端にした事件が多いです。

──飲みの場を発端とする事件が多いのはなぜでしょうか? 

飲みの場で働く女性は距離を縮めるのも仕事だし、それに勘違いした男性が手を出してしまうからでしょうね。

それに加え、飲みの場で働く女性の間で、不同意性交等罪で訴えることができるという知見が共有されているので、事件化しやすい印象はありますね。

法改正前は、泣き寝入りしていた女性がいっぱいいたんですよ。お酒を飲まされて強引な性交をされたけど、証拠が不十分だと。だから、訴えやすくなったのはいい傾向だと思います。

──不同意性交等罪で訴えられる男性は、自分が不同意性交をしたという自覚はあるのでしょうか?

私の知る限り、自覚があった人は1人もいないですね。警察から電話がかかってきたり、自宅にガサ入れが来たりして初めて問題に気がつくんです。

それで弁護士に相談するときは決まって「同意があった」「相手も自分に好意があった」「相手も積極的だった」なんて言うんです。

でも詳しく話を聞くと、「部屋に来てくれたから」とか「好きって言われたから」とか、弁護士からすれば性的同意とは必ずしも言えない話ばかりなんですね。