どちらも“生きやすさを与えてくれるもの”

波崎さんの生まれ育った環境は、孤独で苦しいものだった。そんな彼女が福祉を学びつつ、芸能の世界に足を踏み入れたのは、こんなきっかけだという。

「とあるオーディションを受けたときに『応援してもらえるっていいな』と感じたことでした。もともと表には出さないものの、何者かにはなりたかったのかもしれません。

そして実際に活動していくなかで、ファンの方に温かい声をかけてもらうことやSNSで応援のメッセージをあげてもらえることによって、気持ちが救われていくのを感じました」

これまで福祉の道にまっすぐ進んできた彼女が芸能に活路を見出した背景には、こんな考え方の転換がある。

「大学生になって、より深く福祉について学んでいくと、『悩んでいる当事者』だけが悩んでいるわけではないことが理解できました。誰にだって、福祉に駆け込むほどではなくても、悩みは必ずある。

だとすれば、より広い範囲の、より多くの人たちに気持ちを届けることができるものはなにか考えたとき、その答えの1つが芸能ではないかと思えたんです。

ファンの方たちに応援してもらうことで私は救われましたが、ファンの方からは、『応援する側も応援することで活力をもらっている』と伝えてもらったこともあります。

社会において、福祉はもちろん大切な役割を担うものです。しかし、その段階までいかなくても、人は気分が落ち込んだり、やる気になれなかったりするときがあります。そこに手を差し伸べる身近な存在が芸能であり、エンターテイメントなのではないかと私は考えているんです」

海辺でも撮影も多くこなす
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波崎さんが心揺れた、「福祉」と「芸能」という2つの道。彼女は今、この2つの道をどう見ているのか。

「福祉というと堅いイメージで、芸能というとポップなイメージがありますから、全然別のものに思えるかもしれません。

でも私は、そのどちらも、人間が人生を歩んでいくうえで“生きやすさを与えてくれるもの”ではないかと思っているんです。深刻な悩みを持つ人だけが悩んでいるわけではないし、むしろすべての人が悩みの軽重にかかわらず健康な心を維持できる社会にしていくために、どちらも必要不可欠でしょう。

私にとって芸能は、ありのままで生きていける世界です。ファンの方たちがいてくれる限り、どこまでも自分の魅力を磨いてお返ししていこうと思っています」

その生い立ちから、かつて自己開示ができず悩んだ波崎さんの笑顔には、今一点の曇りもない。自らを支えてくれる人たちを支えていく。その決意を胸に、彼女はあるがままの姿で羽ばたく。

取材・文/黒島暁生 写真/本人提供