親会社に是正勧告される事態に
劇団の次期理事長は、居丈高に虐待の「証拠を出せ」と居直ります。阪急阪神ホールディングスの執行役員も、この虐待の事実を前にして、謝罪とは反対の、不満と苛立ちを顔に表していました。
これも、劇団の理事会、阪急阪神ホールディングスの取締役会の会議が、機能不全に陥っている証拠です。会議の目的は、ひたすら利益追求です。その利益のためには、劇団員の人権はゼロであり、劇団員は使い捨ての駒だと考えているのでしょう。
こうした上層部ですから、Aさんに虐待犯罪をした上級生の実行犯たちには、詫び状を提出させただけで、処分はなしにしました。何の改善策も示されていないので、宝塚歌劇団ではこのような虐待が今後も続けられていくでしょう。組織内部の会議が本来の機能を失ったとき、このような悪が紡ぎ出される実例です。
1年後の2024年9月になって、労働基準監督署は歌劇団を運営する阪急電鉄に対して、是正勧告を出しました。Aさんが他の多くの団員同様にフリーランスだったとはいえ、雇用された労働者と見なして、労務管理の不備を指摘したのです。
本来であれば、虐待ですから動くべきは警察でしょう。阪急電鉄は、歌劇団の改革に努めるというコメントを出しています。改革に至るかどうかは、小手先の対応策ではなく、悪を生んでいる会議を変えられるかにかかっています。
あるべき団員のミーティングでは、全員が心を開いて自分のことだけを口にするのです。上級生も下級生を責めるのではなく、自分はこういう努力はしているもののまだ充分ではない、と自分の話をすればいいのです。
そうすれば各自が他の団員の状況を知って、協力していこうという意識が芽生えます。その過程で、やはりここは労働条件を改善すべきだという方向性が見えてくるかもしれません。
そんな現場の要請を受けて、会社側の会議でも各出席者が忌憚のない考えを口にします。社長だけが自らの見解を押しつけるのではなく、発言には平等性が保障されています。そうすれば利益一辺倒の今のやり方では、将来に禍根を残すのではないかという会議の流れになっていくでしょう。まさしくポリフォニーが功を奏するのです。
文/帚木蓬生 写真/shutterstock