コメの高騰より痛手なのは…… 

「しばらくは茗荷谷店で加工もすべて行ない、力をつけてまた店舗展開をしようとみんなで言っていました。でも、『やっぱり、この地域に根差して、地域の人たちの1番になってもいいんじゃないか』と方針転換したんです。

ただ、この店舗も古いし、大家さんには数年前から『建て替えるかもしれない』みたいに言われていて。同じ場所に戻ろうにも、新築ビルの1階の家賃なんて今の何倍もするから大変ですね」

牛丼を作る手さばきは職人そのものだ(撮影/集英社オンライン)
牛丼を作る手さばきは職人そのものだ(撮影/集英社オンライン)

そろばんを弾くうえでさらに気がかりなのは、原材料価格の高騰だ。とくに、コメの値段は昨年比で2倍以上も上がっているが、丼太郎はなぜ並盛300円台を維持できるのか。

「お米はたしかに大変だけど、痛いのはコメより肉なんですよ。肉の値段ってコメの比じゃないし、使う量も全然違う。輸入だから、円安が続く限りなかなか値下がりしませんし。

価格に関しては、『値上げせず別の材料でできないか』と“工夫”を常に考えていまして。アメリカ産の肉をオージー・ビーフにしてみたり、産地には柔軟に対応しています。

コメも銘柄を変えたりしてその時々で業者さんと相談しながら、安くていいものを仕入れています。産地やメーカーを決めず、常にいろいろと切り替えながらやってます。

こういう工夫は得意だし、昔からずっとやってきてますからね。やっぱり、この辺は学生も多いですし、なるべく値段は上げないほうがいいですから。

「社長らしいことはしてませんよ(笑)」と謙遜しつつ、赤裸々に語ってくれた佐藤慶一氏(撮影/集英社オンライン)
「社長らしいことはしてませんよ(笑)」と謙遜しつつ、赤裸々に語ってくれた佐藤慶一氏(撮影/集英社オンライン)

前回の値上げは昨年8月で、並盛350円から40円上げました。ここ2年は毎年価格を変えていて、一昨年まで290円だったので、100円も上がっちゃいましたね。心苦しいけど、材料費も光熱費も全部上がっているので……」

ここ2年は毎年8月に値上げしているとのことだが、物価の急騰をふまえると、より頻繁な値上げ対応が必要にも思える。この点をたずねると、佐藤氏は「2、3ヵ月だったら、なんとか頑張って耐えようかなって」「この年末年始にも値上げしようかという話はあったけど、もうちょっと頑張ろうとなりました」と答えた。

小規模店ゆえに値上げ後の貼り替えも一苦労だという(撮影/集英社オンライン)
小規模店ゆえに値上げ後の貼り替えも一苦労だという(撮影/集英社オンライン)

この「頑張る」の意味をさらにたずねると、なんとも涙ぐましい言葉が飛び出す。