ラストで描かれる、公安警察からの勝利 

企業爆破ののち逃亡した桐島は工事現場で職を得る。はじめは普通の生活を送れることに安堵していたが、やがてこのまま逃亡生活を続けていいのかという葛藤に苦しむようになり、もう1人の自分と問答を始める。

「誰にも知られず死んだらまだ逃走を続けていることになったのに、なぜ死期の直前にわざわざ本名を名乗り出たのか? 一つは、彼は大道寺(将司/東アジア反日武装戦線のリーダー格。獄中で死亡)みたいに獄中で詩を詠むような表現者じゃなかったから、死に際に今まで闘ったことを表現したかったんだと思う。

自分は革命家ではないけど、パクられたり死んだりした同胞を引き受けて闘ったことを、“本名を名乗り出て死にやがって、馬鹿”って言われても、表現せずにはいられなかったんだろうな」

熱量が高まってくると、すかさずアルコールをおかわり
熱量が高まってくると、すかさずアルコールをおかわり

 タイトルの『逃走』は桐島の「闘争」とのダブルミーニングなのだろうか?

「それもあるけど、そうは言いたくないんです。あくまで逃げ切ることが桐島のテーマだから、『闘争』は絶対使わないって決めていた。

彼の生き様はラプソディなんだけど、そんなかっこいいものじゃなくて、本当は逃げたくないんだけど、細々と東京の片隅で生きることが、みんなの無念と敗北を引き受けて闘うことになる、そこへ主軸を持っていきたかった」

終始桐島への想いを語ってくれた
終始桐島への想いを語ってくれた

映画のラスト近く、病棟で自分の本名を明かし、亡くなったのち、この映画はハッピーエンドのような祝祭をまとって終わる。

「公安警察に勝ったわけでしょ? 最後は特捜の親分に“俺はあんたから逃げ切ってやったぜ”って言うだけで終わってるけど、横たわっている口が“ざまあみろ”って動いてるんです。そのセリフは声にするのでなく、彼自身が闘いを全うしたっていうだけの見え方にしたかった。

どこまで正しい数字かわかりませんが、日本赤軍とか東アジア(反日武装戦線)の人たちではなく、表に出ていない、警察しか知らない案件で逃げて暮らしている桐島世代の人たちが、日本で約1万人近くいるらしいんですよ。

その半分ぐらいはたぶん本名では生活していない、桐島と同じだよね。桐島はそういう人たちの1人でしかないわけで、僕はね、逃げられる人は逃げたらいいと思います(笑)」

ちなみに次回作の構想は「オレオレ詐欺」だとという。老いてなお、人騒がせな監督である。

取材終了後は即一服
取材終了後は即一服
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取材・文/高田秀之 撮影/杉山慶伍

〈作品詳細〉

『逃走』

桐島聡の葛藤を描いた元・赤軍の85歳映画監督「公安警察に勝ったわけでしょ?」 『逃走』に込められた真意とは_6

監督・脚本:足立正生
出演:古舘寛治 杉田雷麟 中村映里子
企画:足立組 
エグゼクティブプロデューサー:平野悠 統括プロデュ―サー:小林三四郎 
アソシエイトプロデュ―サー:加藤梅造 ラインプロデューサー:藤原恵美子 
音楽:大友良英
撮影監督:山崎裕 録音:大竹修二 美術:黒川通利 
スタイリスト:網野正和 ヘアメイク:清水美穂
編集:蛭田智子 スチール:西垣内牧子 題字:赤松陽構造 キャスティング:新井康太
挿入曲:「DANCING古事記」(山下洋輔トリオ)

【2025年|日本|DCP|5.1ch|110分】(英題:ESCAPE)©「逃走」制作プロジェクト2025 
配給・制作:太秦  製作:LOFT CINEMA 太秦 足立組
公式:kirishima-tousou.com