昨年7月には完成していた
足立は現在85歳だが、山上徹也の映画は事件から2ヶ月半で上映にこぎつけるという驚異のスピード感だった。
「『逃走』も昨年の7月には編集が終わっていたから、本当はもっと早く上映したかったんです。ただ、(映画監督の高橋)伴明も桐島の映画を作るって聞いたから、じゃあ、合わせようかとタイミングを見ていたら、公開がこの時期になっちゃった(高橋監督の映画『桐島です』は7月公開)。
桐島死亡のニュースを聞いたときは、別の企画を進めていたんだけど、“足立さん、桐島どうしますか”って聞かれたから、“じゃあ、やろう”って、すぐにこちらの企画を動き出した。それを知った公安からは、すぐに連絡がありましたよ(笑)」(足立正生、以下同)
桐島役で主演をつとめるのは、古舘寛治。演技力の定評もさることながら、かねて政治的な発信をSNSでしてきた俳優だ。
音楽は『あまちゃん』『花束みたいな恋をした』でも知られる大友良英。本作のオープニングでは1970年代を想起させるフリージャズが流れる。
「大友さんはもともと(音楽家)ジム・オルークからの紹介で、何作も劇伴を書いてもらってます。
古舘さんは表情が少ない役柄でも、ちゃんと内面を出せる演技のできる人。このセリフはいる? いらない? を現場で論議しながら、彼が納得してくれるように進めていました。
私は自分が言いたいことをそのままセリフにするので、脚本家としてはデタラメな奴なんですが、古舘さんが直したいと言えば、いくらでも受け入れる余地はある。現場で喧喧諤々の論議をしながら撮影しました。喧嘩相手がいたから、私も楽しく緊張しながら若返らせてもらった」
桐島聡が引き受けたもの
全国指名手配犯として日本中に顔写真のポスターが貼られ、約半世紀のあいだ潜伏生活を続けていた桐島聡という人物を、足立監督はどう捉えているのだろう。
「49年間、あの笑顔のポスターがずっと貼られていたわけですからね。保険証を作れないから、歯がボロボロになっても、飲んで内臓が壊れても病院にも行けない、そういうことも含めて、引き受ける生き方を選んだんでしょうね。
彼はメンバーの中でも若かったから、パシリみたいに扱われていたんですよ。大学を追い出されて仲間と(東京・)山谷に行くんだけど、みんなのように日雇い労働しながらパチンコやったりせず、ただ勉強していた。いずれバンドをやりたいだけの若者だったから、政治的にも思想的にも鍛えられていなかったんですよ。
それで彼は革命を起こすのではなく、革命を成功させるためのキャンペーン──政治的思想を広めるよりも行動することを自分に課すんですね。これが他の活動家とは違った点です」