コメ農家の平均年収は1万円で、時給換算すると10円だが…
そんな藤松さんに昨今の離農の現状についてどう思っているのかも聞いてみた。
「離農の背景には高齢化もあるけど、コメ農家の待遇がかなり厳しいという現実もありますよ。2022年に農水省が公表した統計によると、おもに水田で耕作している農家の農業所得の平均はわずか年1万円でした。時給に換算すると10円です。
これでは新しく始めようって人も躊躇するし、農機具や肥料代などにもお金がかかります。僕自身も農家を始めて3年くらいは警備員などのアルバイトをしなくてはやっていけませんでした。
一方でランニングコストを抑えればチャンスはあると思っていて、僕は今では月に40~50万円は利益が出せるようになってきました。僕の場合は無農薬、無肥料の自然農法なので手間と時間はかかりますが、農薬代、肥料代はかかりません」
実際、SNSで農場の情報を更新したり、直販サイトを使うことで「アシ」で営業せずとも顧客が増えていった。
「無農薬、無肥料という強みを生かして、その中でも少し安価に設定しているのがよかったのかもしれません。コメは今、1キロ900円で販売しています。耕作放棄地は年間3000円~1万円の安価で借りられるので、除草も業者などに頼まず自分でやればコストダウンになる。
農機具も離農する人が増えているのでオークションサイトなどで探すと、数百万円以上するトラクターが10万円程度で売られていたりします。それに離農した人の中には『使えるものは持っていけ』と農機具も譲ってくれる方もいました。
だから、コメ農家も安く始めようと思えばできるんです。実際にコメ農家に興味を持っている人も多くて、僕のところにも大学生や会社員、公務員などいろんな方々が相談に来られます」
地域や土地など条件によって同じやり方が通用するとは限らないが、藤松さんのように自然相手の仕事を志向する人は大勢いる。しかし、国の農業政策は相変わらず方向音痴のようだ。
「最近はスマート農家やAI農家とかの大規模農家を相手にした大きな補助金はついているんですよ。ロボットとかドローンで行なう農業ですね。でも、現実的に大手企業が参入しているわけでもないし、それで農家減少で起こる問題を賄えるというのは絵にかいた餅だとしか思えません。
国内農家の90%以上は小規模農家だし、大手が参入してこないのは利益を出しづらいことがわかっているからでしょう。スマート農家の前に個人農家の所得補償を少しでも行ない、農家減少を食い止め、新規に参入させる方向に舵を取ったほうがよっぽどさまざまな問題が解決すると思いますけどね」