争点に対する裁判所の判断

今回の裁判の争点は、(1)少年が母親の殺害を決意したのは、母親に暴行を加えていた際に「殺して」と言われたことからだ、として嘱託殺人にとどまるか、(2)少年には少年刑務所での刑罰か、少年院での保護処分のどちらが相当なのか、の2点。

当初、少年は母親の殺害について、父親の殺害時に母親が外出中だったため、父親の遺体を発見してからの通報を遅らせるために、母親については一時的に意識を失わせようとしていただけだと話していた。

「(通報を遅らせるために)母の意識を失わせて、トイレに監禁しようと考えていました。ただ、首を絞めたところ、母が『殺して』とつぶやいたので、そのときに初めて殺したほうがいいのではないかと考えました」(少年の公判供述)

一方で、少年が首を絞めた際に、母親が「なんでもするからやめて」と懇願していたことなどから、母親が真意に基づいて少年へ殺害を依頼したものではなく、それを少年は認識していたと検察側は説明した。

判決では、母親は父親の遺体を発見するなどの異常な精神状態や状況下であったことから、母親が熟慮した末に少年に「殺して」と発言したわけではない。また、母親は「殺して」と発言する直前に、「なんでもするからやめて」と懇願し、その声を少年も聞いており、母親の真意に基づく殺害の依頼ではないことを認識していたとして、嘱託殺人ではなく殺人罪の成立を認めた(争点1)。

少年の保護処分が適切かどうかについて、判決では次のように認定した(争点2)。

「犯行は、両親による長年の不適切な養育がなければ起こらなかったものだといえ、被告人のみを責めることは相当でない。そうすると、被告人の刑事責任は重大であるものの、保護処分の許容性は認められる」

閉廷直前、吉井裁判長は少年にこう語りかけた。

「あなたの責任は非常に重大だといえます。あなたはこの前も(自身の罪の重さについて)言っていましたけれど、一生をかけて、その責任と向き合い続けてほしいと思います」

郊外の閑静な住宅地にたたずむ、マンションの一室での出来事。社会が気づくことのできなかった、少年の壮絶な経験と葛藤があったようだった。

Aと両親が暮らしていたマンション(撮影/集英社オンライン)
Aと両親が暮らしていたマンション(撮影/集英社オンライン)
すべての画像を見る

取材・文/学生傍聴人