トランプ再登場でプーチンはNATO崩壊に期待
戦争は多くの不幸をもたらす。特に苦しんでいるのはウクライナ国民だ。2024年現在で、ウクライナ国民の国内難民は800万人、海外難民は820万人に達している。戦争前の総人口は約4500万人だから、約35%の人々が自宅で家族と一緒に暮らすことができない状態だ。
しかし、戦況は総体的に膠着状態に陥っている。
ロシア政府は2022年9月、ドネツク、ルハンスクの東部2州とヘルソン、ザポリージャの南部2州の併合を発表した。ロシア系住民が多いとされるこれらの州だが、形だけロシアに帰属させても、実態は変わらない。
ロシア軍は同月、欧州最大のザポリージャ原子力発電所に対して攻撃し、占領した。国際原子力機関(IAEA)は危険だと警告したが、ロシア側は事実上無視している。
同年10月にウクライナ特殊部隊はクリミア大橋を爆破させた。クリミアから前線へ武器・弾薬や兵站の物資を輸送できなくなると深刻な影響が予測されたが、結果的にみて、戦争全体にそれほどの影響を与えることはなかった。
この戦争はさまざまなことが起きる。2023年6月には、ヘルソン州のダムが決壊して洪水となり、騒がれたが、誰が何のために実行したのか分からないままだ。
2023年夏、ウクライナ軍はロシア軍が占領する南部・東部4州に「反転攻勢」をかけた。しかし、ロシア軍は多くの地雷を敷設し、前進を阻む塹壕を掘って対抗。逆に米国などからのF16戦闘機などの武器供与が間に合わなかったこともあり、結局反転攻勢は失敗に終わった。
2024年8月にはウクライナ軍は、想定で1万人強の兵員を動員して、ロシア政府のクルスク州を越境攻撃した。この戦争で初めてウクライナ軍がロシア領土を占領した。ウクライナは停戦交渉で「クルスク」を取引材料に使う可能性も指摘されている。しかし、戦況全体にそれほど大きい影響を与えることはなさそうだ。
これに対し、1万人を超す北朝鮮軍エリート部隊がクルスク州に配置された。ロシア領奪還に向けてウクライナ軍と戦うことになり、新たな問題が起きる恐れがある。
任期末が近付くバイデン米政権は2024年11月、ウクライナ軍が射程300キロの「陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)」をロシア領内に向けて発射することを初めて承認した。さっそく、同月25日にはクルスク州のロシア空軍基地に配備されているS400地対空迎撃ミサイルに対して発射され、命中した。こうした攻撃に対してプーチンは度々「核」の脅しで反応しており、戦闘はなお危険な状況が続いた。
だが、2024年の米大統領選挙でトランプが勝ち、政権に復帰。符丁を合わせるかのようにロシア軍はウクライナ攻撃を激化させた。
そしてトランプは「1日で解決する」と言っていたウクライナの戦争を「6カ月」に遅らせた。この発言は明らかにロシアの攻撃長期化を示唆してる。
同時にトランプはグリーンランドを領有化し、カナダを「米国の51番目の州」にする要求を始めた。いずれもNATO同盟国が絡んでおり、NATO分断につながる恐れがある動きだ。その場合、NATOのウクライナ支援は大きく後退する。
そうなればプーチンにとっては願ってもないチャンスが到来し、ゼレンスキー政権打倒の可能性が出てくる、と読んでいるかもしれない。情勢激変の行方をしっかり見守る必要がある。
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