あなたにとって家は回復できる場所ではない

小嶋さんが施設で一番大切にしていることは、アルコール依存症の女性たちと楽しむことだという。みんなでお酒なしのバーベキューパーティーを開いたり、施設でカラオケをやったり、仲間の誕生日やクリスマスにみんなで料理を作ったり。お酒がなくても楽しいことがある。楽しいことを実行する中で、徐々に仲間との信頼関係を築いていく。

飲酒を最優先するアルコール依存症者は、日常生活の乱れている人が多い。小嶋さんは言う。

「まず朝は決まった時間に起きて、朝ご飯を食べて服を着替えて、通所が仕事だと思ってここに来る。施設ではアルコール依存症から抜け出ようとしている仲間と話をして、つまり生活のリズムを作っていく。『何でも相談して』と呼びかけて、施設に通うための役所に提出する書類や、生活保護に関する書類の記入を手伝ったり。難しくて面倒臭いことがあると、ついお酒に手がいっていたけど、私たちスタッフと一緒に、自分のことは自分でやる習慣を身につける」

「家は回復できる場所ではない」女性アルコール依存症患者にとって、頼りたい家族が断酒の「大きな壁」となる日本特有の事情_2

徐々に施設で行われるミーティングにも参加し、自分の体験を語り、仲間の体験談に耳を傾ける。そんな中で、自助グループの断酒会やAA(※アルコホーリクス・アノニマス:アルコール依存症などの問題を抱える人たちの自助グループ)の例会に参加する女性も少なくないが、家族がいるとグループとのつながりを持ち続けることが容易でない。

小嶋さんは言う。

「『夜、出歩かずに家のことをやれよ』とか夫に言われたり。アルコール専門病棟に入院できても、外泊で自宅に戻ると、家の中がぐちゃぐちゃになっていて、片付けるだけでくたくたになってしまう。『お前が入院しているせいで、家の中はこんなありさまだ』とか、夫の小言に、外泊中なのにお酒を飲まずにはいられなかったという女性もいました。『あなたにとって家は回復できる場所ではない。本当にアルコールを断ちたいのなら、決断することも選択肢の一つだ』と告げるアルコール依存症の専門医もいます」

離婚も選択肢の一つという考え方に、小嶋さんも理解を示す。というのも彼女自身、頼れるものと離れたとき、初めて〝底つき〟(※飲酒によって家族、健康、財産などの喪失を自身で体験すること)を実感し、アルコール依存症から脱却できた経過があるからだ。