攻撃が簡単なほど戦争は起きやすい

では、何が安全保障のジレンマの起きやすさを決めるのか? 要因には、主に次の2つがあります。それが、①攻撃・防御有利性と②攻撃・防御判別性です。

①攻撃・防御有利性 攻撃が簡単なほど、戦争は起きやすい

「攻撃・防御有利性」とは、ある国が自国の安全を確保するために、攻撃する方が有利なのか、防御する方が有利なのかを表す指標です。それぞれ、次のように定義されます。

攻撃有利
相手を攻撃する方が自らを効果的に守れる場合。

防御有利
相手の攻撃を受け止め、防御に徹する方が自らを効果的に守れる場合。

少々複雑なので、アメリカ社会と日本社会における銃の有無を例にして単純化してみましょう。

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アメリカでは、一般人でも多くの人が銃を持っています。このような社会は攻撃有利といえます。なぜなら、銃撃をする側は攻撃を成功させやすく、銃撃をされる側はそれを防ぐことが困難だからです。

従って、アメリカ社会において最も有効な身を守る方法は、相手が撃つ前にこちらから先に攻撃する、つまり先制攻撃を行うことになります。

言い換えれば、自分を「守る」ための最善の方法が、相手を攻撃することなのです。よって、アメリカ人が銃を所持する目的は、「他人を攻撃するため」というより、「他人を攻撃することで自らを守るため」なのです。

一方、日本では一般人は銃を持つことが禁止されています。このような社会は、防御有利といえます。日本社会における効果的な攻撃手段は刃物です。しかし、もし誰かが刃物で襲ってきたとしても、走って逃げたり、棒や盾になるものなどを使って防御したりする余地があります(あくまで銃に比べれば、です)。

このように、銃がない社会では防御が有利になり、殺人が起きにくくなります。少なくとも、「自分を守るために相手を攻撃しよう」という考えには至りません。よって、日本での最善の自己防衛手段は、家の鍵をしっかり閉める程度になります。

銃がある社会では殺人が起きやすく、銃がない社会では起きにくい。アメリカ人も日本人も同じ人間であり、防衛本能に根本的な違いがあるわけではありません。しかし、そこに銃があるかないかだけで、合理的な自己防衛手段は変わるのです。