「認知症だから」暴力的になるわけではない

しかし状況が違って、たとえば海外を旅行中、観光地からホテルに帰って、スマートフォンや財布がないと気づいたらどうでしょう? 自分の過失以前に、「盗まれた?」と考えないでしょうか。それはとても自然な発想です。

不安がある旅先ではなくしたものも「盗られた」と思ってしまうという
不安がある旅先ではなくしたものも「盗られた」と思ってしまうという

安心している生活環境のなかでは、ものがなくなると「なくした」と思うのですが、不安がある旅先ではなくしたものも「盗られた」と思ってしまう。

認知症の状態にある人が生活環境のなかでなくしたものも「盗られた」と思ってしまうのは、普段からもの忘れや失敗を指摘されていて、しかし、身の回りのことがうまくできず、不確かなことが増え続け、不安が高まっている可能性が高いです。

そのように考えられると、どのように対応するのがいいかも想像しやすいのではないでしょうか。

「そんなことはない(盗られていない、盗っていない)」と否定しても、確信は揺らぎません。それが妄想です。まずすべきことは、否定せず、不安に対して共感を示すことです。

一方で、妄想に共感するだけでは妄想が強化されてしまいます。目の前の事実について共有することも重要で、たとえば「盗られた」と訴えている場合には、一緒に探して見つけることができると「盗られていなかった」ことが共有できます。

認知症になると、理由もなく暴力的になるというのも、はなはだしい誤解です。

前頭側頭型認知症の場合、特徴に「脱抑制行動」があります。万引きや危険運転、セクシャルハラスメントなど犯罪行為に及ぶ場合もあり、理性的ではなくなって、人格が変わったように見えてしまうこともあります。が、その他の認知症ではそのような症状は見られません。