「食欲がなくなったら終わり」

番組収録の3か月後に行った胃の全摘出手術はとりあえず、成功。再発や転移の多いスキルス胃がんだが、術後の経過は転移もなく、腫瘍内科の先生も逆に首を傾げていたほどだった。

そして、約8年が経過。“生還した”と言っていいだろう。本人も「やっと普通の人の2倍くらい食べられるようになった」と冗談を言うなど、元気そのものだ。それにしても、なぜ5年生存率約7%という大病を克服できたのか。

「人に言わせれば親のおかげ、体力のおかげ、野球のおかげってことだけどね。山本浩二さんも(2019年に)がんで肺と膀胱を切っていて、それ以降、10回以上一緒に食事などしてるけど、すごく元気。やっぱり我々昭和の野球人は小さい頃から嫌いなうさぎ跳び、水飲み禁止で鍛えられてるから、そのおかげかな(笑)」

「まあ、それは半分冗談として」と江本さんは続ける。

江本さんの手術を担当したのは慶應大病院の名医。「大事なことは先生を信頼すること。患者と医者はバッテリーみたいなもの。自分が打たれたからってキャッチャーをコロコロ代えてるようじゃダメ」(江本さん)
江本さんの手術を担当したのは慶應大病院の名医。「大事なことは先生を信頼すること。患者と医者はバッテリーみたいなもの。自分が打たれたからってキャッチャーをコロコロ代えてるようじゃダメ」(江本さん)

「人間はやっぱり食欲。王(貞治)さんだって、胃がんで胃を全摘してるけど、普通に食べるからね。
病気後、悪化するやつに共通してるのは食うことをバカにしてる。
インテリジェンスの高いやつらは、よく食べる俺たちを見て『肉体労働者はガツガツ食うね』っていって、自分らはショボショボしか食べない。でもそれじゃダメ。食欲がなくなったら終わり。年寄りが死ぬのは病気じゃなくて栄養失調なんです」

あくまで江本氏の持論も、そこには金言が大いに含まれているように感じる。実際、退院時には担当医とこのようなやりとりがあったそうだ。

「術後約10日で退院となったとき、管理栄養士が来て食に関する注意事項をバーっと言ってきた。『そんなに食えないものがあったらどうしようもないじゃないか……』と思っていたところ、担当医が来て『言うことを聞いてたら逆に病気になるよ。食べたいものはどんどん食べてください』と言われて。

こっちはようやくおかゆをすすれるようになったくらいだったけど、俺は食い意地の塊だからね。精神的にすごく楽になったよ」