がん発覚時に覚えた「敗北感」
南海、阪神でエースを務め、「ベンチがアホやから野球がでけへん」発言により、34歳であっさりユニフォームを脱ぎ、はや43年。引退後は舌鋒鋭く球界を叩き斬ってきた江本孟紀氏も、喜寿(77歳)を迎えている。
81.09歳。日本人男性の平均寿命(厚労省発表「令和5年簡易生命表」より)も視界に入る年齢だが、江本さんがはじめて死を意識したのは8年ほど前だった。
「2017年3月に、ギャル曽根と番組(2017年4月10日放送、日本テレビ系「有吉ゼミ」)でそばの大食い対決をしたんです。
それまでも胃に違和感があったけど、胃薬を飲めば治ってた。それが番組収録中に今まで感じたことがない、胃が破裂するような痛みがあったので、内視鏡を見てみたら一発アウト。スキルス胃がんだったんです」
胃がんの約10%を占めると言われるスキルス胃がんは、胃の壁を厚く硬くさせながら広がっていく進行が速いがん。胃がん全体の5年生存率が60~70%なのに対し、末期のスキルス胃がんはわずか7%ほど。そして、江本さんの場合、発覚した段階でその病魔はステージIVに近かった。
「でもそんなに深刻には思わなかったね。50代なら死ぬイメージができてなかったけど、60くらいからまわりで死ぬやつも出てきた。『自分はどんなふうに死ぬのだろう』とふと頭によぎり始めてたから、俺はこれで死ぬんだと覚悟ができた」
それでも、本人の言うところの“敗北感”を覚えたという。
「やっぱり人間だれしも『〇〇よりも健康だ』『××よりも貧乏になってない』って感じで、同世代を意識して競いながら生きてる。だから、もうすぐ死ぬとなると『あんなやつが健康なのに……』と負けた気分にはなったよね」
負けん気の強いピッチャーならではの考え方だ。