「こんなに暴力的なことをやっていいんだ」
暴力的な性体験の記憶が残るいおりん氏は、一方で、自身が持つもうひとつの側面に深く悩んだ。
「4歳くらいから、自分が『かわいい』『愛しい』と感じたものに対して、意地悪をしたくなってしまうことに気づいていました。もっと言葉を選ばずに言えば、虐げたくなってしまうんですよね」
自らの心の裡にある耐え難い欲求の正体を掴んだのは、かなり後年のことだったという。
「ずっと、自分でもどうしてこのような衝動に駆られるのか不思議でした。しかし調べていくと、キュートアグレッションという攻撃衝動だとわかったんです。かわいいものを噛んだり、つねったりすることによって、心が充足するんです。しかしやった直後は、『なんでこんな酷いことをしてしまったのだろう』という後悔にも襲われます」
高校卒業後、上京したいおりん氏は、ドMのパートナーを得る。そこで自らのサディズムをはっきりと自覚した。
「こんなに暴力的なことをやっていいんだという解放感がありました。それまで欲求はあっても、自制していた部分が多かったため、新鮮でしたね」
自らに課していたブレーキが外れ、そのまま現在の“ドS路線”をひた走るのかと思えば、そうではない。ふたたび抑圧の時期が訪れる。
「20歳のとき、かなり年上の方と結婚しました。嫉妬深い人で、日常を束縛されるようになりました。新年会、忘年会、歓送迎会など職場の飲み会に参加するのも怒る人でした。そのうち、アルバイトさえするなと言われて家に閉じ込められるようになりました。
また、メイクをしたりファッションを楽しんだりすることさえも、『他の男に媚びるのか』という理由で禁止。そんな閉塞感で息詰まる結婚生活が10年くらい続きました」
軟禁に近い結婚生活が解消されると、いおりん氏は徐々に社会復帰を果たした。そのスタイルを生かしたモデルなどの仕事の延長線上に、イベント参加があった。
「『デパートメントH』と呼ばれる、この界隈では有名なイベントがあります。初めて参加したとき、MCに指名されて舞台に上がりました。そこで初めて男性の睾丸を蹴ったんです。これまで忘れていた爽快感が一気に身体を駆け巡りました」