「『本当に自分の給料に反映されるの?』という疑いの気持ちしかない」
保育士の1日は長い。早い人は朝7時に出勤し、7時半に登園した園児を保護者から預かると、常に子どもたちの顔色や表情、健康状態をチェックしつつ、年齢や季節に合わせたプログラムを行なう。
お昼寝時にも、こまめに様子を見ながら連絡帳や保育日誌の記入も欠かさない。20時頃まで開園している園では、退勤が20時半になる。
「毎日、サービス残業に加え、休憩も満足に取ることができません。うつ病になってしまい、一時仕事を休んでいた時期もあります。それでも、子どもたちの日常での小さな成長を間近で感じられることがやりがいでなんとか続けていますが、勤務量や仕事への重責を思うと給与が低すぎます。
今回の人件費引き上げについて、新人保育士が『どのくらい増えるのかな』と喜んでいましたが、私たちベテラン組は『本当に自分の給料に反映されるの?』という疑いの気持ちしかありません」(都内民間保育園で保育士歴25年の主任保育士・アヤカさん)
アヤカさんがそう感じるのには、苦い経験があった。
コロナ禍で登園する園児が減少した2020年。多くの職員が休業するも、コロナ禍後の保育体制を維持できるように特別措置として、国から認可保育園などへ運営費を通常通り支給していた。だが、勤務者へ休業補償を十分に支払わずに、6割補償や中には無給で休まされ、退職を余儀なくされる者もいた。
副業でキャバクラに勤務し、なんとか食いつなぐような女性保育士も少なくはなかった。
当時を知るベテラン組からすれば、国からのお金が自分の懐に収まるとはとうてい思えないという。では、保育士に支払われるべきお金は一体どこへ消えているのか?
「弾力運用ができてしまう保育士の人件費の出し方に疑問があります」と問題提起するのは、九州の公立保育園で保育士歴21年のコムムさんだ。
弾力運用とは、運営費収入や積立資産などを項目ごとに何%と定めずに柔軟に使途を決められることだ。保育園の場合は主に“委託費”が運営費にあたる。委託費は、市区町村を通じ私立の認可保育園や各事業所に渡るもので、税金に加え、保護者が支払う保育料が原資になっている。
「以前は、人件費は人件費に、管理費は管理費に、事業費は事業費に、と使途制限があったんですが、2000年に民間企業が参入したことで規制緩和があり、委託費の弾力運用が認められました。それにより、保育士の人件費が他に使われているんです」」(コムムさん)