『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』
『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』の水原希子は、美人で面白くてノリがいい。それは、恋という病にかかって、そう見えてしまう世界に、主人公と観客が迷い込んでしまったからなのかもしれない。
重度の「恋」という病を患うと、別れたあとも簡単には思い出になどなってくれない。彼女のことを思い出すと、いつまでもかさぶたにならない傷口を眺めるような気分を味わうことになる。
心の中で、澱(おり)のように後悔だけが溜まっていく。ただ3年付き合って4回浮気された僕から言わせてもらうと、後悔は後悔のまま、その後悔と一緒に生きていくしかないと忠告したい。
「もしもう一度、彼女とやり直せたら」
そう男はついつい思いがちだ。磯丸水産の27時くらいの会話は、だいたいそんな話が8割だ。でも2歳差の人とは、10年経っても2歳差のように、うまくいかないふたりは何度繰り返してもうまくいかないものだ。
ちなみに僕は、あの浮気しまくりの彼女が4度目の浮気をして、「別れたいんだ」と言ってきたとき、「そうなんだ。了解」と、いつも通り軽く見送った。きっとまた、彼女は戻ってくるもんだと、心のどこかで安心していた。
だけど彼女はそのあとにこうつづける。
「彼と結婚することにしたんだ」と。さすがに「了解」という言葉の代わりに、「ん?」なんて本当の声が漏れてしまった。そして彼女はつづけざまにこう言う。「でも、君といるときみたいに、彼といるとドキドキしないんだけどね」と。
僕は「そのドキドキしないけど一緒にいたいと思う感情を、もしかして人は愛と呼ぶんじゃないか?」という台詞が喉まで出かかったが、そのまま飲み込んで、やっぱり間抜けに「そっか、了解」と言った。
この映画には、あのときの僕と、あのときの彼女が、そこかしこに映り込んでいた。東京湾をもがきながら泳ぐ妻夫木聡に自分を重ねた。コミック雑誌なんていらない。安直なハッピーエンドなんて人生の足しにならない。
今日、君が幸せだったら悔しい。でも不幸になっていてほしくない。
だから、どこか僕の知らない場所で、君は幸せになっていてほしい。エンドロールを観ながら、僕はそう切に願った。