「今回のようなケースはほとんど聞いたことがない」
公共の空間では「目的外の利用」がしばし話題になる。
JR大分駅北口前の広場にある屋外授乳室で、壁に直径約50センチの穴が空いていた。さらに、大分市が防犯カメラの録画を調査すると、授乳室の利用者は74人のうち「女性」は22人、「男性」は52人と半数以上が男性だった。
男性のうち、乳幼児を連れた利用者は1組のみ。他はカップラーメンや缶ビール、タバコを手にして入室していた。授乳室内はタバコの吸い殻や空き缶などのごみが散乱しており、目的外の利用が多いことから、市は授乳室を閉鎖することを決めた。
たしかに授乳室は施錠ができず、中もカーテンで仕切られているだけのところも多く、安心して赤ちゃんのケアができるとはいいがたい。
そんな授乳室が今、変わりつつある。
Trim株式会社では、設置型ベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」の製造・販売を行っている。従来の授乳室と違い、mamaroは完全個室型で施錠ができ、安心して授乳やオムツ替えを行うことができる。今年8月に累計設置台数が700台を突破し、利用実績は100万回を超えた。
同社の広報担当者は、事件について「今回のようなケースはほとんど聞いたことがありません」と驚きを込めて話す。
どうして、事件が起きてしまったのだろうか。
問題は「奥まっていて、監視の目が行き届かない場所にあること」
前提状況を整理しておきたい。今回の騒動で、Xでは「授乳室の設置場所に問題があるのでは」という指摘が多数あった。
駅から奥まっていて、誰からも目が届かない場所で、乳幼児と2人きり。リスクを避けて、この授乳室ではなく、近隣の商業施設「アミュプラザおおいた」を使用していた者もいたようだ。
しかし、このような不便な場所に設置されているのは、大分駅に限った話ではないそうだ。
「従来の授乳室は、トイレに近い、建物の端にあるのが一般的でした。自治体の庁舎のような公共施設ではそもそも設置されていないことも多く、『あればうれしい』ものでした。民間の商業施設では、テナントへのスペース貸し出しで収入を得る構造のため、授乳室に多くのスペースを割くことができず、『施設にひとつ作っておけばいい』という考えが浸透していました」(広報担当者、以下同)
では、最近はどのように、変わりつつあるのだろうか。
「ファミリーに再来店してもらうため、デベロッパーも商業施設のベビーケアルームの設置に力を入れるようになりました。今では同じ場所に、mamaroを4台設置いただいている店舗や、1、2、3階にそれぞれ分けて設置いただいている店舗があります。どれも建物の端ではなく、トイレと同様にどこからでもアクセスできるような場所にしていただいています」
アクセスがいいと、逆に悪用されるリスクも増えそうだが……。
「鉄道駅には累計37駅に設置いただいています。どこも通行量の多い、利便性のいい場所にあります。たしかに鉄道事業者様からは、悪用を心配される声が当初多くありました。
酔っ払った方が入ってしまうことを懸念されていたようです。そこで、本来使いたい方にご利用いただくために、すべてのベビーケアルームを駅員や警備員から目が届く場所にしていただいています」
他にも鉄道事業者から好評を博した、ある「悪用防止の機能」があるのだという。