松田は全部指定のルーティン

松田宣浩の試合前バッティング練習は、「全部指定」という独特なものでした。

最初は、「外をお願いします」と声をかけられるので、アウトコースを投げていきます。3球くらい打つと、次に「カーブをお願いします」と声がかかるので、カーブを5球くらい打つと、「インコースをお願いします」と言いますので、そこからは内角を続けます。最後、ラスト3球の合図があると、アウトコース、インコース、アウトコースで終わりです。

毎回必ずこれをやっていました。コースを指定されることはたまにありますが、ここまで徹底してコースを指定し、さらに試合前バッティング練習を、「あれやって、次にこれやって……」と、完全ルーティンにしていたのは松田だけでしたね。

意外だった内川のバッティング練習

松田ほどではありませんが、内川聖一はバッティング練習の始まりは必ずライト方向に何球か打つというのをルーティンにしていました。私が投げる球は真ん中ですが、初めはそれを右方向へ打ち、次に普通に引っぱってという流れでした。

横浜ベイスターズから移籍してきた当初、思っていたのと全然違うバッティングにびっくりしたのを覚えています。

ベイスターズ在籍時に首位打者を獲得するなどアベレージヒッターとして有名な選手だったので、コンタクトの上手な中距離打者というイメージを持っていました。

だから、バッティング練習ではライナー性の打球を打つのだろうと勝手に決めつけていました。

ホークスの打撃投手を25年間務める濱涯泰司さん(写真/福岡ソフトバンクホークス)
ホークスの打撃投手を25年間務める濱涯泰司さん(写真/福岡ソフトバンクホークス)

ところが、実際に練習が始まると、めちゃくちゃ飛ばすんです。

スイングの雰囲気とか打球の捉え方、そして打球の上がる角度などから、だいたいこれくらいの飛距離だろうな、あのあたりまで飛びそうだなと知らず知らずのうちに予想しているのですが、内川の場合、いつもその予想をはるかに上回る飛距離が出ていました。

おそらく、上から叩くような軌道でスイングしているので、インパクトの時にいいスピンがかかって、打球が伸びていくのではないかと思います。

もちろん正確にコンタクトする能力は非常に高いので、状況やカウントによって必要とされる打ち方をするため、いつもホームランを狙うタイプの打者ではありませんが、やろうと思えばいつでもホームランが打てるのではないかとさえ思いました。

内川のように、バッティング練習で予想よりずっと打球が飛ぶというタイプのバッターはそんなにたくさんはいません。私が担当したバッターでは、あと多村仁志もそのタイプでした。