試合前のバッティング練習の目的はズレの修正

ほとんどのバッターは、打撃投手にコースの指定やリクエストはしませんが、できれば同じコースに投げ続けてほしいのだろうというのは感じます。その理由は、バッターの状態を確認して調整するためには、一定のボールのほうがやりやすいからです。

先に「規格」どおりの球を投げ続けるという言い方をしたことに通じますが、重要なところなので説明を加えます。

試合前のバッティング練習は、限られた時間で自分のイメージと実際の体の動きにズレがないかをチェックして、もしあった場合はそれを調整するのが目的です。

バッターは過去の経験則から、目で見た情報をもとにバットとボールが当たる瞬間を予測し、その予測のとおりにバットを振ります。ところが、人間は機械ではないので、必ずしもそのイメージどおりに体が動くとは限りません。いつもと同じバッティングフォームのつもりでも、思ったとおりのスイング軌道になっていないということが日常的に起きます。

(写真はイメージ)
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打撃投手が投げる球を打ちながら、そのイメージと現実のズレ、あるいは感覚と動作のズレといったものを埋めていく作業を試合前のバッティング練習で行っているのです。

やりたいことをやってもらう

プロのバッターは、よほどの不調期でない限り、感覚と動作の修正はすぐにできます。あとは調子の良し悪しを確かめるために、やりたいことをやってもらうこと、別の言い方をすれば、気持ちよく打ってもらうことが大事です。

そうならば、打撃投手が投げるべき「一定の場所」は、バッターが打ちやすそうにしている場所ということになります。

私の場合は、その「一定の場所」がどこなのか、打者の打ち方や反応を見ながら決めています。他の打撃投手がどうしているのかはわかりませんが、バッティング練習自体で打撃投手とバッターとでコミュニケーションを取っているという感じはあります。

一流のバッターになればなるほど、バッティング練習ではひとりの世界に入り込んでいますので、こちらとしてはより集中力を高められるように、邪魔をしないようにと気を使うところもあります。「一定の場所」としてどこを狙って投げるのがいいか、バッターの様子から感じ取ることも打撃投手の仕事のひとつだと思います。

職業・打撃投手
濱涯泰司
職業・打撃投手
2024年10月9日発売
990円(税込)
176ページ
ISBN: 978-4-8470-6708-2

打者に「気持ちよく打ってもらうこと」が役目の打撃投手。常に同じ軌道にボールを投げる再現性が求められる。そんな精密機械のような仕事を選手から転じ、25年間続ける男の矜持とは——。

・マシンと投手との役割分担
・打撃投手の仕事は打ちやすい球を投げること
・柳田は打撃練習で雰囲気が変わる
・工藤監督には「成績表」を提出していた

……など、ホークスを支えてきた打撃投手が、その仕事の全貌を余すことなく語る。選手から転向する際の葛藤や小久保、柳田など数々の大打者たちを「育てた」エピソードなど、プロ野球ファン垂涎の一冊。

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