激怒する記者に心動かされて…
2022年に所属事務所との契約が解除になってからというもの、東出はフリーの立場で活動している。仕事依頼や取材の窓口も自らこなす。
東出とメディア関係者のエピソードで私が最初に驚かされたのは、こんな話だった。ある女性週刊誌の記者が東出に取材を申し込んだところ、快く対応してくれたものの、タイミングが合わずに断られたのだという。その際、取材は受けられないが、今度、山に遊びに来てくださいと東出に声をかけられ、記者は本当に遊びに行ったというのだ。
にわかには信じがたかったが、その後の東出の報道に触れるにつけ、そのような話は決して特別なものではないことを知る。
東出の山での狩猟生活を記録したドキュメンタリー映画『WILL』の中にも、直撃取材を受けた女性週刊誌の記者らとそれをきっかけに親交が深まっていく様子が描かれていた。
東出が楽しげに思い出す。
「こっちに移り住んで、初めて直撃してきたのが、その女性週刊誌の記者とカメラマンだったんです。ここまで追われて、(自分の生活は)もう詰んだなって思ったんですけど、話したら、けっこうわかってくれる人たちで。
それまでは事務所に所属してたから『事務所に問い合わせてください』としか言えなかった。かといって、事務所も内容が虚偽だからといって記事を訂正できるわけではないので、結局、好き勝手なことを書かれてしまう。でも、そのときは、もう話すしかなかったので」
彼らは近辺で東出と女性が車に乗っているところを隠し撮りすることに成功したため、その女性との関係を問いただしてきたのだという。実際は地元の猟友会の集まりに参加するときに車がエンコ(エンジン故障)してしまい、仲間の女性猟師に連れて行ってもらっただけだった。
東出と女性が山で密会していたという記事を書くつもりだった記者らは、その場で会社の上司に当てが外れたことを電話で報告した。ところが、作り話でもいいから密会というストーリーで記事を書くよう指示され、猛烈に反発したのだという。
東出は、その様子を逐一観察していた。
「記者の方たちが激怒してたんですよ。『本人が違うって言ってんだからダメだろ!』って。その姿を見て『えっ!?』ってなりましたね。この人たちにも良心はあるんだな、と」