わたしの辞書には「欲しい」がなかった
桜林直子(以下、サク) スーさんは悪意を汲まない人だよね。
ジェーン・スー(以下、スー) そうそう、昔から。あとから「あれ?嫌味言われてた?」って気づくことがたしかに多い。遅いよね。性格的におめでたいところがある。
サク わたしは悪意センサーが敏感なんだよね。あの人ヤバいかもとか、避けた方がよさそうとか、早めにわかる。うまく使えばいいこともあるし、キャッチしすぎてるなと思うこともある。
スー あくまで結果論だけど、私の場合は悪意をキャッチできないからスルーできることも多いし、相手が私を恣意的に下に見ようとしたところで響かない。鈍感だなあ、と思われてることもあると思うよ。
回避能力が乏しいからヤバい人に突っ込んでっちゃうこともあるけど、それで大惨事が起きたこともないから、まぁいいかなと思ってる。
明確な悪意も世の中にはあるけれど、本質的には受け手がどう取るかの問題なんだと思ってて。だから、こっちにコンプレックスがあったり過敏になってると、悪意のないところに「悪い」って色をつけてしまうこともある。
「その言葉と態度、私に向けられた悪意として認定します」みたいな感じで感情を差し押さえてくる人がいるけど、いやいやそれ全然違うよって思うこともなくはないよね。
これが万人にとっての真実です、ではなくて、その人にとっての真実でしかないから。どこに光を当てるかで物事の見え方がずいぶん違う。
サク その人にはそう見えているっていうやつね、いわゆる認知の歪み。みんなそれぞれ歪みがあるからね。
スー 誰にでもあるよね。私も含めてオール認知歪み。飲み口が欠けたコップを出されてもまったく気にしないか、そういうコップを出された自分は疎まれてる、バカにされてると認識するタイプか。そういう違い。
自分が粗末に扱われたと繊細に受け取る人には、自尊心が削られてきた過去があることが多いと言うけれど。