陰徳の精神の背景にあったPL教団の教え
「両親の影響もありますが、やはりPLに行ったことですかね」
それは、PL野球部の寮生活で培われたものなのか。あの地獄のような上下関係でもまれたからこそ、今の自分がある…。ところが尾花はこれを言下に否定した。
「いえ、野球部ではありませんよ。野球部は酷いこともありました。自分が影響を受けたのは、教団の教えですよ。『人生は芸術である』から始まって、21カ条(:処世訓21カ条)というのがあるんです。『世のため人のためになるような人材になりなさい』という教えですよ」
尾花はPL野球部OBがよく口にする体罰の経験主義に囚われていない。ここで尾花は「これは保護司とは少し離れた話ですが…」と現在の活動について語り出した。
「今は、ハラスメント全般が問題になってるじゃないですか。これは、従来の心理学の『SR理論』で関わってるからそうなるんです。Sは『stimulus』=『刺激』、Rは『response』=『反応』、相手に刺激を与えて、コントロールしようとするやり方。
つまりは一方的な命令を下して、罰したりして、相手を変えようとするやり方です。これをやっている限りはハラスメント問題は解決しないんです。
その逆に『選択理論心理学』というのがあって、これは人の行動は外からの刺激ではなく、自らの願望に照らし合わせて選択されるという考え方。つまり自分を変えることができるのは他者による支配や飴とムチではなくて、結局自分自身なんですよ」
スポーツの現場で長きに渡って行われてきた、怒鳴る、叱る、ペナルティを科すという指導では人は変われない。結局、内的変化を促すことでしか、成長を得られない。尾花はプロ野球のピッチングコーチや監督を歴任し、多くの選手を指導してきた中でこの考えに至ったという。
そしてそれはアメリカの精神科医ウィリアム・グラッサー博士が提唱した心理学に出逢い学術的な裏付けと言語化を得ることができた。今、「選択理論心理師」という資格を得て、その「選択理論」を広める活動をしている。
「ハラスメント問題をなくすためには、強い刺激で指導する「外的コントロール」の関わりをやめて「内的コントロール」に移行するということが前提なんです」
39年前に選手たちがオーナーや球団の持ち物に甘んじることなく、自分たちの意志で動き出して自立した考えを持つ選手会労組を作った。
その事もまた外的から内的への移行ではなかったか。低迷していたヤクルトは1990年代に黄金時代を迎えるがそれはまたこの89年の選手会労組の再加盟を経てという事実もまた忘れてはならない。
文/木村元彦