9月19日開会の県議会冒頭で不信任決議案…

だがこの日斎藤知事は、たかりとは比べ物にならない重い問題で一気に守勢に追い込まれ、口にした強弁が取り返しがつかないほど県議や世論の怒りを買うことになった。

今回の問題では、斎藤知事と側近らの不正疑惑を書いた告発文書をメディアや県警に送った元西播磨県民局長・Aさん(60)が、文書の作成・送付などを理由に懲戒処分を受けている。

斎藤知事の側近だった当時の片山安孝副知事(7月末に辞職)がAさんから取り上げたパソコンの中にあったプライベートなデータを、これも知事側近の井ノ本知明・総務部長(7月末から総務部付)が持ち歩いて県議に見せるなどしてAさんを追い込み、Aさんは7月に自死している。(♯7♯14

「Aさんは告発文書を郵送した時点から、公益通報者保護法によって保護されるべき存在でした。本人特定の調査や不利益を与えることをしてはならないのです。

しかし斎藤知事は、自身の疑惑が書かれた告発文書の内容を把握するやいなや激怒し、片山副知事らに発信者の特定を指示。県の公用メールの解析を端緒にAさんが発信人だと特定し、報復として懲戒処分にしました。Aさんの割り出しから処分まで、すべてが公益通報者保護法違反です」(フリーランス記者)

斎藤知事は「告発文書は証拠がないため真実相当性がなく、誹謗中傷性の高いものだ。このためAさんは公益通報者として保護される対象ではなく、調査や処分は適正だった」と主張してきた。

知事のたかりやパワハラ、公金不正支出疑惑など7項目の疑惑を書いたAさんの告発文書の中身は次々と事実だと判明しており、「真実相当性がない」との論理はほとんど崩れているが、それでも知事はこの主張を崩していない。

証人尋問を受ける片山副知事(撮影/集英社オンライン)
証人尋問を受ける片山副知事(撮影/集英社オンライン)

ところが百条委が9月6日、知事の尋問直前に参考人として招いた山口利昭弁護士が、知事が絶対に譲ろうとしないこの理屈を、完膚なきまでに叩き潰した。

山口弁護士によると、公益通報者保護法は2020年の改正で、告発内容に真実相当性があろうとなかろうと、告発者を保護する体制を事業者は整える義務を負うことになっている。兵庫県はこの義務を果たしておらず「違法状態」を続けていると指摘したのだ。

消費者庁の公益通報者保護制度検討会委員を務める法改正作業にも携わった山口氏の法解釈には口を挟める余地はない。Aさんへの調査や処分が許される余地が全くないことが明確になった。

山口弁護士の解説を尋問で聞かされた斎藤知事はそれでも「法令上いろんな解釈があると思いますけど、われわれはあくまで、今回の外部通報は保護されるものではないと(考える)」と強弁。

松本裕一議員から「解釈ではない。県政トップとして道義的責任を感じないのか」と詰められると「道義的責任というものがどういうことかわからないので明確にコメントできません」と逆ギレし、背後の傍聴席から「部下を死なせといて」「人間じゃねえや」と罵声を浴びた。

百条委員会に参考人として出席した山口利昭弁護士(撮影/集英社オンライン)
百条委員会に参考人として出席した山口利昭弁護士(撮影/集英社オンライン)

「知事の2回目の尋問を見た県議会の空気は一気に硬化しました。議会の定数は86ですが、37議席の最大会派の自民党が知事に辞職要求をする方針を出し、第2会派で21議席の維新の会を除く全会派が同調する方向で9月7日までに協議を始めました。

最後まで知事を擁護した維新の態度は未定ですが、他の全会派と無所属の議員が辞職要求で足並みをそろえ、知事が応じなければ9月19日開会の県議会で10月3日に補正予算が通ればその日にも不信任決議案が可決される公算が高くなります。そうなれば知事は議会を解散するか失職するかのどちらかを選ばなければなりません」(地元記者)

次回の百条委開催予定は10月下旬で、議会が解散されれば百条委もいったんなくなり、次に構成される県議会で再び設置されるかは不透明だ。斎藤知事の将来と、実態解明の行方が、ともに不透明になった。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班